国内外で数多くの展覧会を見るが、最近では美術館やギャラリーのみならず、本当に様々な場所でアートが展示されるようになった。そうしたなか、今回は、美術館で展覧会が開催される意義についていまいちど考えながら印象に残った展覧会を3件選んだ。展覧会や展示作品の良し悪しというよりも、下記の3つの点について即するかという観点で選んだ。
- 美術館が本来持つ「万人に開かれた場所」という特性を活かして、積極的に実験的かつ多様性を伴う作家を紹介していくこと
- 美術館の権威と、人脈があるからこそ展示ができる至宝の数々を、広く社会、鑑賞者に見る機会を与えている
- 美術館の展示会場の特性と、展示内容が見事にな絡み合い美しい空間を生む。そこに存在するアーティストと美術館のキュレーターの対話
ユージーン・スタジオ 新しい海(東京都現代美術館/2021年11月20日〜2022年2月23日)
東京都現代美術館では初となった平成生まれのアーティストによる個展。美術館が本来持つ「万人に開かれた場所」という特性を活かして、積極的に実験的かつ多様性を伴う作家を紹介していた素晴らしい一例だと思われる。様々な意見が話題となった本展覧会だが、我々鑑賞者及び社会に「2022年のアートとは?」という疑問を投げかけ、それについて議論させる、まさに現代アートの在り方を感じる好機となった。
Francis Bacon: Man and Beast(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ/1月29日〜4月17日)
生涯、人間像について探究し続けたベーコンの作品のうち動物をモチーフとした作品を中心とした本展。2022年春、パンデミックや戦争など、世界が危機的な状況に対面していたなかで、我々人間が秘める動物的な側面について考えさせられる内容となっていた。作家の50年のキャリアのうち、最初期の作品から、絶筆に至るまで約45点の作品が集められ、ベーコンの代表作のひとつである闘牛シリーズの3作品が初めて一堂に会したという、まさに美術館の権威と人脈があるからこそ展示ができる至宝の数々を、広く社会に見る機会を与えた素晴らしい展覧会だった。
池田亮司展(弘前れんが倉庫美術館/4月16日〜8月28日)
弘前れんが倉庫で開催された本展では、池田亮司が2000年以降に取り組んできたデータを主題とする作品が展示され、歴史と未来という異なる時間を楽しめた。とくに15メートルの吹き抜けの大空間にプロジェクションされた《data-verse 3》は、煉瓦倉庫だからこそ生み出せる音響が素晴らしく、昨年、アートバーゼルで同作品を鑑賞した時とは違う新鮮な体験だった。美術館のサイトスペシフィックな特性に、アーティストとキュレーターの対話が絡み合った美しい空間は、改めて美術館に足を運ぶ悦びを感じさせてくれるものとなった。