INTERVIEW / PROMOTION - 2019.8.28

初来日公演で見せる、ハッカーが神となる未来。チェンチェンチェン(香料SPICE)インタビュー

東京、日本を代表する国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」(F/T)が10月5日に開幕する。8ヶ国を拠点とする12組のアーティストが上演を行うF/T19で初来日公演を果たすのが、中国・杭州を拠点に、哲学的な歌詞とマルチメディアを使ったライブパフォーマンスを行う2人組のサイケデリック・エレクトロニックグループ「香料SPICE」。F/Tでは自著のSFマンガをベースに、エレクトロニックとポップ、東洋と西洋の要素からなる作品を発表するという香料SPICEから、メンバーのチェンチェンチェンにこれまでの活動や発表予定の作品『新丛林 ニュー・ジャングル』について聞いた。

聞き手・構成=宮田文久

会場となる東京芸術劇場でのチェンチェンチェン(香料SPICE) 撮影=高見知香

現代美術とバンドを組み合わせたスタイル

━━このインタビューの直前まで、フジロックにいらしたそうですね。台風が直撃していましたが、大丈夫でしたか?

 すごく大変でした(笑)。1日目、1人用の小さなテントを張っていたんですが、ほとんど水没してしまって。そうしたら、5~6人は入れる大きなテントを張っていた日本の人たちが、どうぞと言って入れてくれました。

━━どんなアーティストのパフォーマンスを楽しまれたのですか。

 たくさんいますが、特にトム・ヨークと、ジャネール・モネイですね。トム・ヨークに関しては、低音がベースでずっと鳴っていて、そこに人の声がかぶさっていく、そうした音楽をずっと続けていられる人というのは、あまりいないと思います。似たようなことをしている人は多いけど、どこか真似になってしまいますよね。彼は自分の世界、自分の音楽というものを、完全につくりあげた人だと感じます。

 ジャネール・モネイの場合は、強烈なまでに「ショー」でありながら、人々に訴えかけるメッセージ性がありますよね。勢いよくパワフルなライブを届ければいいというパフォーマーもいますが、そうではなく、彼女はきちんと自分の伝えたいことを明確にお客さんに届けている感じがある。細かい演出が魅力的だな、と。

━━香料SPICEについてうかがううえで、トム・ヨークとジャネール・モネイの名前が出てきたのは印象的です。ご自身たちの活動と、どこか関連性はありますか。

 私はとにかくトム・ヨークの熱狂的なファンで、レディオヘッド時代から大好きです。自分たちも昔はどちらかと言えばトム・ヨーク寄りのつくり方をしていたのですが、最近は比較的ジャネール・モネイのほうに近いですね。作品を上手くコントロールしていく、ということを考えるようになっています。

ミュージックビデオ撮影中の香料SPICE

​━━チェンチェンチェンさん、イーライ・レヴィさんによる香料SPICEは、サイケデリックなビートの上に、ポップな歌声を乗せていくバンドです。そもそも、どのようにして始まったのですか。

 当初は、私個人のソロプロジェクトのようなものとして進めていました。もともと杭州の中国美術学院で勉強し、その頃は日本の実験音楽に強い影響を受けた作品をつくっていました。ただ、だんだんと、パソコンでつくった音楽を鳴らし、後ろに映像を流す、ということではない手法をやっていきたいと思うようになり、バンドを組むという方向にシフトしていったという感じですね。

 その後、2018年にエレクトロニック・ミュージックのネット配信番組『即刻電音(Rave Now)』に参加しまして(*1)、実験音楽とポップスを組み合わせてつくる、ということに興味が湧いてきたんです。自分がもともとやっていた現代美術とバンドを組み合わせるというかたちで、それを実現したいと感じるようになりました。

香料SPICE

━━アメリカ人プロデューサーであるイーライさんとはどのようにして出会ったのですか。また、香料SPICEは現在に至るまで、メンバー変更を経てきていますよね。

 バンドのメンバー内でなかなか意見が合わないこともあり、いろいろと人は変わってきました。以前はイタリア人のベースに入ってもらっていたこともあります。その人もやめてしまい、ベースがいなくなってしまっていた頃、知人を通じて、中国に来ていたイーライを紹介してもらったんです。

 杭州に住む私の自宅兼アトリエにイーライが来てくれて、家に入ったところに飾ってあった、私が描いた絵画をとても気に入ってくれました。別の部屋には私が好きで集めていた多くのCDがありましたが、好きな音楽やミュージシャンに関して、とても話が合ったんです。イーライは中国に来る前、周りのアメリカ人から「中国の音楽なんてどうせ大したことない」と言われていたそうなんですが、こうして実験的なことをやっている人間がいるとは思わず、ビックリしたようで。それで意気投合したんですね。

━━なるほど。そのうえで、なぜ香料SPICEはサイケデリックかつポップな世界観を打ち出しているのでしょうか。

 前提として、もともと私たちが、ピンクフロイドやレディオヘッドといったサイケデリックな音楽を好きだった、ということはあります。いっぽうで、たんなるストレートなポップスということではなく、私は自分がつくっている音楽の中には、アートの空間を残したいと思っているんです。聴いてくれる人、会場全体が──私は「儀式的」という言い方をしますが、そうしたものになったらいいな、と。

 サイケデリックかつポップスという音楽性は、お客さんをそうした空間に連れて行きやすい、と感じているんです。私自身このスタイルが好きですし、お客さんにも、そうしたものとして受け取ってもらえたら、と思っています。

チェンチェンチェン(香料SPICE) 撮影=高見知香

未来の世界を描いた『新丛林 ニュー・ジャングル』

━━儀式的空間と舞台空間は相性がよさそうですが、今回の『新丛林 ニュー・ジャングル』はさらに、制作中のSFマンガ『ニュー・ジャングル』が下敷きとなったパフォーマンスのようですね。

 まずはマンガの世界観をお話ししますね。17世紀英国の哲学者、トマス・ホッブズは著書『リヴァイアサン』のなかで、人間はジャングルにいるようなものだと言っています。人間はそれぞれ敵対心をもってお互いに攻撃しあっていて、ある意味ジャングルのなかにいるのだ、と。いまそうしたジャングルは、インターネットという場につながっています。中国で書き込んだものが、アフリカにいる人が読めるような状況にあって、おそらく未来の人々はそれぞれ、パスワードによって守られるだろう──それが私たちの提示する『ニュー・ジャングル』というものです。ネット上の安全規制を中心にした、未来の世界像が根底にあります。

 このうえで具体的なストーリーを描いているわけです。未来ではハッカーが神になって、人々それぞれのパスワードを破っていき、コントロールするようになるだろう、と。いままでとは異なる、ハッカーによって生まれた神というものが未来の神なのではないか、という物語を考えています。

『ニュー・ジャングル』のビジュアルイメージ

━━現在哲学科の博士課程にいらっしゃるチェンさんならではの考察も含まれているように思います。香料SPICEは以前上海で舞台芸術的なパフォーマンスをされたことはありますが、海外での公演は今回初めてです。いまおっしゃられていたような話をパフォーマンスにするのでしょうか。

 私たちのみならずパフォーマーも加える予定で、公演時間は60分になります。ストーリーを凝縮して見せるというよりは、マンガをベースにした音楽や映像を見せていこうと思っていますね。普段から香料SPICEの映像を手がけてくれているVJ尤曜銘(ヨウ・ヤオミン)も参加してくれます。音楽は、ストーリーから詩的なものを8曲つくりました。

 物語から抜き出したキーワードをパフォーマンスとして見せる、ということも考えています。具体的には、先ほど「パスワードで守られる」ということを話しましたが、それを「お面を身につける」ということでパフォーマンスに取り入れる、ですとか。

━━未来を直感的に想像する空間になりそうですね。

 おそらくお客さんは、『ニュー・ジャングル』のストーリーが全部わかるというよりは、パフォーマンスを通じて、未来の自分たちはパスワードによって守られるのだとか、ネット上で人類が神になるんだといったことを感じてもらうものになるでしょうし、見た後に語らってほしいと思っています。

2015年上海で公演した『Force Analysis 1.0』より

━━『ニュー・ジャングル』の世界観に、チェンさんが生まれ育ち拠点にされている中国・杭州の環境は、何か関係がありますか。

 私が住んでいる杭州はご存知のとおり、阿里巴巴(アリババ・グループ・ホールディング)の本社があり、網易(ワン・イー/ネットイース)が設立された地でもあるように、非常に巨大なIT企業が存在している場所です。ネットが最も発達している土地でもある。そうしたIT企業が生活をコントロールしている場所に私が住んでいるということは、今回の作品につながっている部分があると思います。

 今作は、Netflixのドラマシリーズ『ブラック・ミラー』(*2)のようなところがありますが、他方では、遠い未来のことを語っているようで、じつは自分たちの生活と近いというか、いまの時代を語っています。作品のなかで探っていることは、すでに生活の背景、オンラインで問題として起きていること。そうしたものを見せていきたいですね。

━━中国とSFと言えば、劉慈欣(リウ・ツーシン)のSF小説『三体』が現地では2100万部以上のベストセラー、日本でも10万部以上のヒットになっています。

 『三体』は読んだことがありますが、私自身が大きく影響を受けたSFは、『ホドロフスキーのDUNE』というドキュメンタリーです。

━━映画監督ホドロフスキーがアメリカのSF小説『DUNE』を映画化しようとして頓挫しつつも、そこで発揮されようとした豊かな想像力について語っていくドキュメンタリーですね。

 ホドロフスキーは大好きで、やっぱり作品が儀式的な感じがします。そういったものにすごく共感してきました。撮影方法から構図まで、すべてから影響を受けています。

 もう一点、「香料SPICE」という私たちの名前は、原作小説『DUNE』に出てくるスパイスから取っているんです。

━━星から星への飛行を可能にし、宇宙支配の鍵となるスパイス「メランジ」が出てきますね。

 はい。小説に出てくる「メランジ」はとても貴重な資源として描かれていますよね。宇宙飛行士たちの感知能力を高めたり、長距離飛行を可能にする力を持っています。そういう香料「メランジ」のように、私たちも人々のイマジネーションを刺激するような作品を提供できたらという気持ちもあります。また、スパイスというものは、料理のなかでも、何か人に「感じさせる」要素だと思うんですね。ある意味で、サイケデリックと強く通じるものがあるのではないか――そう考えて、「香料SPICE」という名前を使っているんです。

2015年上海で公演した『Force Analysis 1.0』より

━━ご活動の背景がよくわかりました。最後に、初めての海外でのパフォーマンスである今回の公演に期待することをうかがえますか。

 私が発信するメッセージはきっと伝わると思っています。そして「健康的」な作品になれば、と願ってもいます。1回演じてハイ終わり、というものは「不健康」だと思っていますから。今回の出演者には日本の方も入ってもらう予定なんですが、舞台でしか味わえない緊張感を共有して、解放されてから何日経っても、そのときのことをずっと思い出せるようなものになっていれば、と。

 来年も新しいマンガをつくる予定があるんです。今回の公演だけでストップするのではなく、いいかたちで継続していければいいなと思っています。いままでやってきたこと、ペインティングや音楽、マルチメディアについての研究も、すべて今回の作品につながっているように。じつは、40歳までに自分がアーティストとしてやりたいことのスケジュールは、リストアップしてあるんです。

━━(スマートフォンに表示された大量のリストをスクロールして見ながら)すごいですね! チェンさんは1987年生まれですから、向こう8年くらいのリストですね。

 それまでずっと自分を高めながら、みんなと一緒によりよいものをつくっていき、見せていく、という状態になっていけばいいな、と。今回のメンバーは普段ほかの仕事をしている人もいますが、このプロジェクトのために集まってくれて、まるで薪を拾って天まで届く火をつけたように感じています。そして、私たちは、その火を囲んで踊っているのです。

*1──中国のエレクトロニック・ミュージックのオンラインバトル番組。2018年、香料SPICEはこの番組でトップ10入りを果たした。

*2──テクノロジーの進化がもたらす奇妙な未来や現代を描くSFドラマ。ダークで風刺的なテーマが背景にある。