INTERVIEW - 2018.4.25

KAWSが語る「KAWS」

両目がXXになったキャラクターで世界的に知られるアーティストKAWS(カウズ)。その最新作が東京・六本木のペロタン東京で5月12日まで開催されている。KAWSはいつから「KAWS」なのか? そして画家・KAWSが作品に込める意味とは? 本展に合わせ来日したKAWS本人に、ASAKUSAを主宰する大坂紘一郎が聞いた。

文=大坂紘一郎

KAWS 撮影=稲葉真

KAWS 撮影=稲葉真
「(最初のグラフィティは)子供のときだよ、小学生のときかな。ニュージャージーじゃあみんなやっていたからね。それから高校からは、ブロンクスとかワシントンハイツとかに行って描いてたね」。 ——なんて描いてたんですか? 「…...KAWS」。
ペロタン東京でインタビューに応じるKAWS 撮影=稲葉真

 グラフィティが文字によるタギングを中心に展開する表現ジャンルと考えるならば、ストリートアートの定義ははるかに不明瞭であり、フライポストからフリーハンドの描画、ジェニー・ホルツァーのように映像プロジェクションを使った都市空間の介入までその手法も多様だ。KAWSがストリートアーティストであるかどうかは、わからない。だがキャプテン・モルガン(注:ラム酒の銘柄、1993年)のビルボード広告にグラフィティを施した19歳の頃から、日本に渡ってバウンティハンターとの初めての立体作品、NIKEやユニクロとのコラボまで、既存のキャラクターデザインをアレンジし目をX(バツ)にしたKAWSのデザインとその名前は、ショッピングモールの店頭から、オークションカタログ、美術館ショップまで至るところにあふれている。

 なぜ名前を書くのか? 「ギャラリーも美術館も行かなかったし、僕の育った環境ではコミュニケーションの方法として、それが自然だったんだ」。1980年代は、ニューヨークのイーストビレッジで中心的な存在だったスタッシュ(STASH)やFUTURA(フューチュラ)。1980年代はグラフィティがアートとして確立された時代である。比較的仲間内に近い、特定のエリアの、特定の世代層との「コミュニケーション」の手段としてグラフィティを続けていたが、ニューヨークへ移住してからは、都市のより中心的でのビルボードや広告ポスターへの「介入」が、より多くのオーディエンスを刺激した。そこには、広告を提供する企業やその購買層というより、直接的な対象があるが、KAWSの場合、そこに社会的なメッセージや批判が織り込まれているというわけではない。代わりに、彼を特徴づける☓印と自らがデザインしたキャラクターが埋め込まれている。つまり、KAWSという名前を意匠化したタギングである。

 2002年には自らのウェブサイトを通じて消費者に販売を始めるが、それもより多くの人の目に届き、接点を持つということに専念しているようにみえる。2008年にエマニュエル・ペロタンの所属になるまで、ギャラリーや美術界のシステムもよくらなかったという。日本でも馴染みの深い彼のトレードマークはファッション業界のみならず、世界中に拡散するマスコットとなり、現在は中国・長沙市の国際金融センターに、「コンパニオン」と「BFF」の大型彫刻の設置が進行中であるという。

 グラフィティアーティスト、トイデザイナー、彫刻家と様々な肩書きで語られるが、いまペロタン東京で紹介されているのは、画家としてのKAWSだ。原色の流線が飛び交うハードエッジ・ペインティングには、ポップカルチャーのキャラクターが節々に垣間見られる。

会場で一際目を引く新作の《ACTIVITY TRAP》(2017-2018) 撮影=稲葉真

 「昔ディズニー関連のジャングル・ピクチャーズというアニメーション会社で働いていて、セル画を描いたからね。(今回の展覧会の作品では)コンピュータでコラージュしてからキャンバスに照射して、そこからドローイングしたり......。GOLDEN社に特注で調合してもらったパワフルな色のアクリル絵具が何百種類もあって、そこから選ぶんだ」。

《ACTIVITY TRAP》の前に立つKAWS 撮影=稲葉真

 2000年代以降、シンプソンズ、ミッキーマウス、ミシュランマン、鉄腕アトムなど数々の輪郭を高速になぞってきた彼の手は、いかなる参照も不必要なほどに手の動きで記憶しているのだろう。あらゆるキャラクターが解体された線となり、キャンバスの上に自在に重ねられている。作品の説明を求めても「流動性」としか言わない。「一つひとつにとくに意味はなく、長時間イスに座って没頭して描いている」という。ブラッシュワークをまったく感じさせない表面は、色によっては30層以上、スタジオの制作チームによって入念な塗りが施され、間近に近づいて仔細に見なければ、線の歪みもズレも見つけられない。

展示風景。左3点は《NYT》(2018)、右は《NYT》(2017)

 インタビューの途中、KAWSは自宅で飾っている彼のアートコレクションを見せてくれた(註1)。1950年から60年代のポップカルチャーを貪欲に絵画に取り込んだピーター・ソール、ポップアートにヨーロピアン・オールドマスターを融合させることで絵画の復興をもたらしたジョージ・コンド…...。なかでも目に引くのは、ニュージーランド出身のスーザン・テ・カーランギ・キングのドローイングだ。観察するあらゆるものの意味が剥ぎ取られ、謎の液体で満たされたプールから現れる手、身体がばらばらになって浮遊するドナルドダックなどが、意識の視覚化として自在に現れる。KAWSのコレクションに垣間見るのは、大衆的なイメージをシュールレアリスムへ流し込んだポップアートの異種と、闊達な色彩と線が生む平面構成の特異点であり、彼の作品からは容易に読み取れない側面だ。

KAWS RESPONSE ABILITY 2018 キャンバスにアクリル絵の具 167.6x274.4x4.4cm 撮影=稲葉真

 グラフィティから広告ポスター、アイクポッドの高級時計からエアジョーダンのスニーカー、ユニクロの1500円のTシャツまでの商業主義的な展開を見ると、KAWSがポップアートの持つ批評性について無自覚であるはずはないが、彼が強調するのは商品を見て所有することによって生まれる「コミュニケーション」である。その素朴なスタンスは、コンテクストや情報戦略を重視するネオポップからも、社会的なメッセージを前景に出すアートアクティビズムの一潮流からも、まったく自由であるように見える。このKAWSのアプローチは、美術史を横巻きに眺めて自らのプラクシスを位置付けるよりも、自らの活動を地理的な広がりと実質的なコネクションを通して展開するいわゆるストリートアートの広義の意味合いに近いのではないか(註2)。しかし、実践で鍛えられたKAWSの絵画は、あるいは彼が敬愛するスーザン・キングよりもモチーフを解体し尽くしているために、あえて言語化すべき内容も見出しにくい。それだからこそ、絵画として取り組む欲求が生まれるのではないだろうか。

 「そもそも僕をペインターと見る人も、少ないと思うけどね......」。

KAWS 撮影=稲葉真

註1 KAWSのアートコレクション、最近のニュースについてはInstagramを参照

註2 「ストリートアーティストは制作スタジオだけではなく、さまざまな創造的分野で活動するが、彼らは反=芸術ではなく、周囲を気にすることなく公共で活動する自由を謳歌する」(テートウェブサイトの語彙集より)