わずかに彩度が低く、穏やかな色彩が折り重なる抽象画。あるいは、食パンをキャンバスに、バターや食材が抽象的な画面をつくる「Abstract Butter」シリーズなどを手がけてきた作家、益永梢子。過去には、古書や新聞紙からなる構造的な作品も発表するなどその作風は幅広いが、一貫して取り組むのは、絵画の可能性の探索だ。益永はこれまでの活動を「根底には絵画がある。絵画の要素を解体し、再構築してきたように思います」と振り返る。
近年は、透明なアクリルボックスの中に着彩された複数枚の画布を詰め込んだ作品も発表。重力で画布がずれ、色の配置に変化がもたらされることもあるが、そうしたコントロール不能な部分も、益永の作品では重要な要素となる。「予期できないことをあえて作品に取り入れることで、私自身も作品から新たな発見を得たいんです」。
平面的で静的、といった絵画のイメージを、益永は軽やかに飛び越えていく。「幼少期から、それぞれの色が高低差をもってこちらにせり出してくるような色の“高さ”を感じていた。その感触ゆえに、絵画の3次元的な広がりを確信しているんです」。展示予定の会場を訪れ、その空間から作品の構想を練り上げていくという益永の姿勢は、そうした3次元的な意識に基づいている。
水戸芸術館現代美術ギャラリーで2月10日から5月6日まで開催する展示では、「たとえば紙飛行機が、空気を含んで軽やかに着地する」ようなイメージの作品を、アクリルボックスを用いた作品のほか、新たな手法で制作、発表する。「完成作品は、いわば一時停止の状態。置き換え、変形することで別の作品になりうる予感をはらむ、生まれ続ける絵画をつくり続けていきたいです」。
(『美術手帖』2018年2月号「ART NAVI」より)