2016年展覧会ベスト3
(『美術手帖』編集長・岩渕貞哉)

数多く開催された2016年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらうこの企画。最後に特別版として、『美術手帖』編集長・岩渕貞哉編をお届けする。

「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」の会場となった、茨城県久慈郡大子町の上小川にある一本木

飴屋法水「何処からの手紙」 (「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」、2016年9月17日~11月20日)

地域の郵便局にハガキを出すと案内が返送される

「茨城県北芸術祭」の出品作の一つ。なのだが、飴屋法水の用意した物語を案内に地域を訪ねて、人や風景、ものといった他者に遭遇していく「巡礼」の空間的・時間的な体験の深さは、芸術祭本体を凌駕しかねない射程を孕んでいた。「何処からの手紙」に導かれた観客は、否応なく彼の地と自身の生を関係させられてしまう。来年以降も増える芸術祭のあり方の極北として、今後、参照点となるだろう作品。

生きるアート 折元立身 (川崎市市民ミュージアム、2016年4月29日〜7月3日)

折元立身 BEFORE SEX ACTION 1997 紙にペン、鉛筆、水彩 29.5×41.5cm 写真提供=川崎市市民ミュージアム

折元立身の地元・川崎での回顧展。母・男代への日々延々と続く介護の合間に生み出されるドローイング群は、作家の活動の根底にある衝動と感性を圧倒的な規模で見せつけた。11月に行われたパフォーマンスでは、97歳となり制作に関わるのが難しくなった母に代わって、折元自身が「アート・ママ」になるという新展開を見せた。老老介護の問題など、気づけば未踏のテーマの先頭に立っており、今後ますます目が離せない。

燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡 (府中市美術館、2016年7月16日〜9月11日)

新海覚雄 構内デモ 1955 キャンバスに油彩 162×241.5cm 国鉄労働組合蔵

立川基地拡張の反対闘争や国鉄労働組合の労働運動に取材したルポルタージュ絵画を中心に、新海覚雄の画業をたどる常設展の特集展示。なかでも、毎日のように砂川基地闘争の現場に通い住民との関係を築くことで描かれた肖像画の展示は、豊富な資料とともにアート・アクテヴィズムの視点から見直すことが要請されていて、回顧にとどまらないアクチュアリティーを獲得していた。沖縄・辺野古への基地移転や長時間労働の問題を抱える現代の日本で、新海のような画家はありうるのだろうか。

PROFILE

いわぶち・ていや 1975年生まれ。1999年慶応義塾大学経済学部卒業。2002年に美術出版社『美術手帖』編集部に入社。2008年より編集長。

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