無関心の壁を壊し、ミュージアムを100年先の未来へ
現在、ミュージアムの世界では、文化庁「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」改正案に盛り込まれた「廃棄」という一語が、議論を醸している(*2)。
半田はこの問題について、「文化財の廃棄の是非が議論となる背景には、世間の無関心がある」と警鐘を鳴らす。「膨大な未整理資料が自治体から『無価値なもの』に見えてしまうのは、整理と調査研究が進んでいないからです。刀研機構の支援によって研究が進み、資料の価値が可視化され、10万人が見つめるなかで語られれば、それは『未来への投資対象』になり得ます」。

さらに、この10万人の存在は、社会の意識そのものを変える可能性を孕んでいる。「自分が課金したお金の一部が社会に還元されているという実感を、とくに若い世代が『成功体験』として持てるようになる。これは30年、50年先の日本の文化行政にとって、何物にも代えがたい希望です。それこそが、日本が文化大国として生き残る唯一の道ではないでしょうか」。
刀研機構の活動は、刀剣研究の助成にとどまらず、ミュージアム全体の将来に関わる意義をもつ。その証左に、昨年11月にドバイで開催されたICOM(国際博物館会議)世界大会では、国際委員会のひとつ、International Committee for Museum Management(INTERCOM・マネージメント国際委員会)の部会において、刀研機構の助成事業と、機構の提示する循環モデルをテーマとする発表「Gaming Profits, Cultural Gains : Nitroplus’s Innovative Funding Model for Museums」が、ジアンジュン・イェ(レスター大学博士課程)によって行われた。
この先、小坂は博物館支援、文化支援の動きをさらに加速させるべく、ニトロプラス一社に留まらない、他企業をも巻き込む「コンソーシアム」のような未来予想図を描いているという。
「11年目にして過去最高レベルの盛り上がりを迎えているのは、文化財を大切に思うユーザーの皆さんの熱意があってこそだと感じています。この熱量を一時的なブームで終わらせることなく、刀剣周辺の伝統工芸やアーカイブ支援へと広げていきたい。失われた名刀を現代の刀工に依頼して復元し、技術を継承するプロジェクトも検討しています。エンターテインメントが生み出した利益が文化資源を守り、そこからまた新しいクリエーションが生まれる。この循環を、日本のスタンダードにしていきたいと思っています」。

10万人の「推し活」から始まったこの「社会実験」はいま、日本のミュージアムに対する支援のあり方を根底から書き換えようとしている。推し活から生まれた「熱意ある寄付金」と「疲弊する現場」のあいだで、日本のミュージアムは「冬の時代」を抜け出し、サポーターとともに歩む新しい春を迎えることができるだろうか。
*2──文化庁「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」改正案には、これまでになかった資料の「廃棄」という文言が盛り込まれた。この改正案を巡りパブリックコメントが実施され、ミュージアム関係者によるシンポジウムも開催された。



















