アートプロジェクト文化資本論
3331から東京ビエンナーレへ
「ザ・ギンブラート」「新宿少年アート」「コマンドN」「アーツ千代田3331」、そして「東京ビエンナーレ」。1990年代から数々のプロジェクト・事業に従事してきた著者によるアートプロジェクト論の集大成。著者の主張では、アート、産業、コミュニティの掛け合わせこそが社会文化資本力を生み出すという。3331立ち上げまでのドキュメントは、資金やテナントの問題、地域社会とつながるための具体例をつまびらかにしており、きわめて実践的。アートプロジェクトに関わるすべての人に向けた先達からの声。(中島)
『アートプロジェクト文化資本論 3331から東京ビエンナーレへ
中村政人=著
晶文社|2300円+税
芸術文化助成の考え方
アーツカウンシルの戦略的投資
イングランドを中心とした英国のアーツカウンシルの仕組みを詳述した一冊。芸術文化助成の背景にある考え方、組織の構造、各職種の役割などが記されている。芸術的な卓越性を重視するだけでなく、芸術への接触頻度の低い地域に対する予算配分や、多様性に配慮した助成が行われているという指摘は興味深い。いっぽうで、筆者もあとがきで認めているように、批判的な視点は薄い。いわゆる「アームズレングスの原則」が英国においても実際には柔軟に運用されているという指摘は、日本で芸術文化助成に関わる人間にとっても関心を引かれる、さらに探究する価値のある問題だと感じられた。(岡)
『芸術文化助成の考え方 アーツカウンシルの戦略的投資』
石田麻子=著
美学出版|2500円+税
目の見えない白鳥さんとアートを見にいく
全盲の白鳥建二さんの趣味は美術鑑賞。奔放な友人マイティから白鳥さんを紹介されたノンフィクション作家のわたし(川内有緒)は、白鳥さんと一緒に美術館を訪ねることに。その鑑賞スタイルは、言葉で「見えるもの」を記述しながら皆で話の輪を広げていく創発的なものだった。障害者・健常者の立場がいかに世間的に固定されたものか、偏見やわかり合えなさを見つめながら「ともにあること」の価値を見出していくアート巡りの旅。「わたし」が自分の言葉で多くの気づきを組み立てる様子に倣いたくなる読者も多いはず。(中島)
『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
川内有緒=著
集英社|2100円+税
(『美術手帖』2021年12月号「BOOK」より)