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美術手帖2021年12月号
特集「NFTアートってなんなんだ?!」
「Editor’s note」

『美術手帖』2021年12月号は「NFTアートってなんなんだ?!」特集。雑誌『美術手帖』編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。

『美術手帖』12月号より

 そもそも「NFTアートって何?」という読者は多いのではないだろうか。この言葉がメディアに頻繁に登場するようになったのは、ほんのこの1年ほどのことなので、その疑問も当然だ。注目を集める契機となったのは、今年3月にアーティストのビープルによる作品《Everydays :The First 5000 Days》が老舗オークションハウス「クリスティーズ」のオンラインセールにて、約75億円で高額落札されたというニュースだ。続けてダミアン・ハーストら現代美術家たちがNFT作品を発表し、世界的なメガギャラリーも参入。仮想通貨での購入・支払いといった参入までの壁や、既存の美術界とは異なる価値基準で動いていることから、日本のアート界の反応は当面は静観という態度が多いようだ。いっぽう仮想通貨の市場規模と取引金額は拡大し続けているため参入者が多く、デジタル・アート売買の新たな生態系が生まれつつあるのもまた事実である。いったいこの現象はどんなシステムや欲望で動いているのか。そして既存のアートマーケットを変えるような可能性はあるのだろうか……。そうした見極めや正しい情報を得るためにも、まずはその実態を探ってみようというのがこの特集の動機である。

 NFTアートの世界は、2015年前後から主にブロックチェーンと仮想通貨に通じた人々のコミュニティを中心に形成され始めた(当初は「クリプト・アート」という名で流通)。NFTとは、本来複製可能なデジタルデータに、非代替な電子証明書を付けることで、そのデータが「唯一のものであること」を保証するという技術。これを活用した一点物のデジタル・アート作品が、「NFTアート」と呼ばれるものだ。18年頃からその売買に特化したマーケットプレイスが複数の企業によってつくられ、セカンダリー・マーケットも成長し続けている。またこの1年のNFTアートの活況は、コロナ禍によってオンライン上におけるマネタイズが活性化した影響もあるだろう。

 NFTアートは、「誰がどんな表現をしてもよい」という前提のもと、つくり手の年齢も10代からと幅広く、キャリアや人脈も関係ない。マーケット上でコレクターと直にやり取りできるので、成功すればそれだけで生計を立てることも不可能ではない。いっぽうで、マーケットプレイスにおけるデータの永続的な保証が曖昧で、所有や展示における法的な権利関係も整備されていないといった技術的な問題はある。また価値基準やクオリティ、キュレーションのようなものを求める声もあがっている。

 登場してまだ数年の分野のため課題も多く、その功罪についても賛否両論あるが、まずはコミュニティの実態を知らないことにはその醍醐味もわからないだろう。自ら見定める知識を得て、参入するかどうか判断するために、それぞれの記事が役立つことを願う。

2021.10
雑誌『美術手帖』編集長 望月かおる
『美術手帖』2021年12月号「Editor’s note」より)

編集部

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