光学のエスノグラフィ
フィールドワーク/映画批評
一見謎めいたタイトルは、この本がどのように映像作品に向き合うのかという態度を示している。著者は、記録映像や実験映像が撮影された地域に赴き、宗教儀式に参加する。その意味で、この本は、エスノグラフィックな実践報告である。しかし、本書がユニークなのは、もとの映像作品の鑑賞自体も一種のフィールドワークとしてとらえようとする点だ。そして、複数の意味でのフィールドワークの結果が、個々の作家論を深める手段として有効に用いられている。(岡)
『光学のエスノグラフィ フィールドワーク/映画批評』
金子遊=著
森話社|2900円+税
クバへ/クバから
写真家・舞台作家として「舞台表現」としての撮影を続けてきた三野新による第一写真集。山本浩貴+hが主宰する「いぬのせなか座」が全面的なプロデュースを手がけた。個人史も交えて沖縄を取材した三野の写真に、「左右のページ」が対話する戯曲とドローイングを加え、本そのものが演劇の舞台として機能する紙面をつくり上げた。「手」のイメージを託された沖縄の植物クバも、モチーフをつなぐ媒介項として効果を上げている。写真の構成から装丁に至るまで、コンセプトの軸を感じさせる秀逸な作品集。(中島)
『クバへ/クバから』
三野新=著
いぬのせなか座|4500円+税
テアトロン
社会と演劇をつなぐもの
演劇は観客のありようをいかに変化させてきたのか。本書は、ギリシア悲劇、ワーグナー、ブレヒトに言及しながら、高山明自身の『ワーグナー・プロジェクト』『Jアート・コールセンター』といった実践を、観客に関わる問いとの歴史的な格闘の軌跡のなかに位置づけようとする。本書で語られる演劇史は、教科書的なものではなく、高山の創作の原理を示すための演劇史である。この歴史記述の最後で高山は、演劇の可能性を劇場にとどまらせることを拒否し、町へ出ていくことの価値を高らかにうたい上げる。(岡)
『テアトロン 社会と演劇をつなぐもの』
高山明=著
河出書房新社|2850円+税
(『美術手帖』2021年10月号「BOOK」より)