『公の時代』
自主規制の空気が蔓延し、公権力が表現に介入するようになった社会において、アーティストはどのような役割を果たしうるのか。盟友であるChim↑Pomの卯城竜太と美術作家の松田修が、公と私の硬直した関係に斬り込むべく交わしてきた対談の記録。2人が参加した「にんげんレストラン」からオルタナティブスペースのカウンター機能を再考し、望月桂やマヴォをはじめとする大正期新興美術運動に「エクストリームな個」のモデルを見出すなど、「公の時代」の閉塞感を突破するための表現論を徹底討論。(中島)
『公の時代』
卯城竜太(Chim↑Pom)、 松田修=著
朝日出版社|1800円+税
『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』
現代美術の流れは西洋中心主義の歴史観で記述されがちだが、時代背景、地域、メディウムなど多様な条件のもとに成立する表現の展開は単線的にとらえられるものではない。欧米、日本、さらにはトランスナショナルな現代美術史を「芸術」「社会」というテーマに沿って整理した本書は、美術史の複数性を意識させる視野の広い構成が魅力的だ。イギリスにおける黒人作家のアートムーブメント、東アジア現代美術の脱植民地化をめぐる政治的アプローチなど、類書に見られない事例が紹介されているのも大きな特色。(中島)
『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』
山本浩貴=著
中公新書|960円+税
『村上福壽郎 グッドタイミングクラブ』
巨匠たちの作品がその生い立ちとともに語られるなか、村上隆は異色の存在である。作品が論理的な性格を持つせいか、彼の藝大時代以前の挿話はほとんど聞いたことがない。ところがその論理性への執着は、敗戦の記憶からアメリカの優れた論理性を説く父親に影響を受けていた。原色動物のモビールから裸婦のペン画まで種々の作品を収めた本書は、元タクシー運転手である村上の父・福壽郎の初作品集である。息子の作品とは似ても似つかぬが、アメリカへの憧憬と劣等感は確かに共有されている。(近藤)
『村上福壽郎 グッドタイミングクラブ』
村上福壽郎=著
Kaikai Kiki|320円+税
(『美術手帖』2020年2月号「BOOK」より)