『バンクシー 壊れかけた世界に愛を』
徹底した秘密主義と痛烈な社会風刺で知られるバンクシー。紛争地帯の壁画やオークション会場での「シュレッダー事件」など、しばしばゲリラ的な活動が話題に上るが、本人は「ストリートアート」の旗手として注目される以前から、社会的弱者に寄り添う一表現者として、現実社会の変革を目指してきた。著者は、作品と場所との関係に着目し、海外での作品体験や関係者取材を踏まえながら、その真意を明らかにしてゆく。「社会関与の芸術」に関心を持つ人にもぜひ読んでほしい1冊。(近藤)
『バンクシー 壊れかけた世界に愛を』
吉荒夕記=著
美術出版社|2000円+税
『美學校 1969−2019 自由と実験のアカデメイア』
東京は神田神保町の路地裏に位置する古いビル。およそ学校のイメージからかけ離れたその3階に、芸術の私塾「美学校」はある。今年で50周年を迎えた同校は、これまで一貫して既存の教育に反旗を翻し、現役アーティストの講師を中心とする少人数制クラスを開き、多彩な表現者を輩出してきた。しかし、その知名度に比べて実態はいまだ謎に包まれている。本書はその謎のベールを剝がすべく、教程の紹介、半世紀にわたる校史、関係者の証言などを通して、オルタナティブ教育の真髄に迫る。(近藤)
『美學校 1969−2019 自由と実験のアカデメイア』
美学校=編
晶文社|2700円+税
『瓦礫の未来』
今年プリツカー賞を受賞し、米寿を迎えた建築家・磯崎新。新著の目次には、ザハ・ハディド、クルディスタン、安仁鎮、平壌と、不穏な名前が並ぶ。相次ぐ大震災やテロで世界に瓦礫の山が遍在する今日、辺境こそ「アーキテクチュア」と改めて向き合うための最適な土地で ある。古今東西の歴史に自身の逸話を織り交ぜて展開される物語=批評は、一 読しただけでは消化できないが、心配は無用。なぜなら著者が断るように、本書はロゴスをイメージへ転移させる壮大な企てなのだから。 (近藤)
『瓦礫の未来』
磯崎新=著
青土社|2400円+税
(『美術手帖』2019年12月号「BOOK」より)