Part② ワークショップ:お気に入りのものをリフレームする
課題1「これまでの人生で自分でつくったモノのなかで、気に入ったモノのスケッチを描いてみよう!」
「リフレーミング」についての前提講義の後、生徒たちに最初の課題が提示された。描くのはこれまでの人生でつくったモノだけでなく、コトでもOK。スケッチとともに文章で説明を加えると良いというアドバイスも添えられ、ワークショップがスタートした。
高校3年生の小野詩乃は、母親から勉強するときはスマホを家族共用の充電ステーションに置いていくように言われている。でもやっぱりスマホが手元に欲しいので、ステーションに置くためのスマホのダミーをつくった。
おこづかいが不足気味だという高校2年生の荒金祐衣は、数日前に募金箱をつくって家の中に設置した。また、ハトが好きで、ハトが道端にいると写真を撮っている。写真が溜まってきたので、現像して写真集をつくろうと思っているという。
高校1年生の日向野すみれは、小学校5〜6年生のときに、図工室に通って先生にもらった木片をひたすらやすりで磨いていたという。いまでも暇なときに触って、すべすべの感覚を楽しんでいる。
課題2「自分でつくったモノやコトをリフレーミングして、新しいアイデアのモノやコトのスケッチを描いてみよう!」
次の課題では、課題1で書いたものからひとつ選んで、いよいよ「リフレーミング」を行う。
課題1で、小学生のときに友達とつくったカレーが美味しかったと描いた中学3年生の細野今日子は、「カレーがもし冷たかったら、暑い夏でもぐいぐいいけちゃう。『カレーは飲み物』って誰かが言っていたが、本当に飲み物だったらどうなるんだろうと考えてみた」と、タピオカのような容器入りのカレードリンクを考案。「カレーも持ち運べる時代です」という名言に教室が沸いた。
課題3「リフレーミングした新しいアイデアのモノやコトのスケッチを、紙で立体の模型にしてみよう!」
最後の課題は、課題2で描いたものを紙を使って立体にするというもの。紙はとても簡単に扱えて、色をつけたりもできるため、短時間でのモデリングに適している。生徒たちにはできれば実寸で模型を作成することが望ましいと伝えられた。また、最後に行うプレゼンの方法として、誰が・どこで・どんなふうに使うと楽しくなるものなのか、寸劇を交えてストーリーを示すとよいとアドバイスされた。
透明シートに好きなキャラクターを描いてクリアカードをつくったことがあった高校3年生の金子梨花は、実寸でキャラクターカードをつくることを考案。薄いので普段は隠しておけるし、収納にも困らない。透明であれば、風景とも溶け込んで、本当にそこにいるかのように見えるとアイデアを発表した。
募金箱をつくった荒金は、当初の小銭用のものではお金が足りないと、お札も入るものを新たに考えた。また、両親にお金を入れてもらうために考えたのは、募金箱の横に自分が立って困っている顔をしているという、情に訴える作戦。弟による盗難の心配もなくなり、「これで間違いなくお金が手に入る」と力強く語っていた。
細野のカレードリンクもさらにバージョンアップ。「映(ば)える」ことも意識して、普通の茶色ではなくカラフルな色が提案され、山﨑も「すぐにでも商品化できそう」とコメントした。流行のタピオカや、じゃがいもなどを入れたらいいのではないかと、ほかの生徒たちからも具体的なアイデアが寄せられた。
9人全員のプレゼンを聞いたあとは、それぞれが制作した課題1、2のスケッチ、紙でつくった模型の3点が机に並べられ、最後にみんなの作品を鑑賞。記念写真を撮影して、2時間のワークショップが終了した。
小学生のときから「答えを出す」教育を受けて育ってきた私たちにとって、そうでない思考方法を育てることはなかなか容易ではないと山﨑は考えている。ワークショップが行われる前に、「正しいことをやろうとすると、それはおのずと古いことになってしまう。(まだ評価されていない)新しいことを行うためには、トライアルを重ねていくしかない」と話した。クリエイティブイノベーション学科からは、10年後、いまは存在しない新しい肩書きをつくる人材が生まれることが期待されている。「ビジョン」は「妄想」。こんな自分自身になったらいい、こんな街になったらいい、こんな社会になったらいい……そんな妄想力を使って思考し、さらに思考を変える訓練だけでなく、つくり出したものをMUJIcomなどを通して社会に接続していく。
遠くない未来、この市ヶ谷キャンパスで、妄想から生み出されたアイデアが形になり、手に取ることができるようになるのかもしれない。
本シリーズでは、高校生に美大を通してアーティストやクリエイターの動向について知ってもらうためのプロジェクトを展開。今後もレポートをシリーズとして掲載していく。
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