ヒエロニムス・ボス、レンブラント、ヴァン・ゴッホ、ダリなど、中世ヨーロッパ美術から近代美術まで15万点を超えた作品を所蔵しているオランダ・ロッテルダムにあるボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館。2021年秋より、この美術館が持つすべてのコレクションに、一般来場者がアクセスすることが可能になる。
現在、同館に隣接する「デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン」(以下、デポ)という収蔵庫が建設されている。ロッテルダムに拠点を置く建築事務所「MVRDV」によって設計されたこの収蔵庫は、高39.5メートル、1万5541平米の総床面積を持つ。そこで、同館のコレクションを一般公開し、来場者はそれぞれの美術作品の保護、復元、輸送、研究など、美術館の「舞台裏」の活動を直接に見ることができるというものだ。
同館の館長であるシャレル・エックスはこう語る。「世界のミュージアムでは、一定の期間内に所蔵品の約6〜8パーセントが展示されています。デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲンでは、15万1000点の美術品コレクションの100パーセントが一般公開されます。もちろん、巡回される作品もあるので、それを踏まえると99.9パーセントかもしれませんが」。
例え99パーセントであっても、それが世界に類を見ない試みであることは違いない。エックスはこう続ける。「ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館はコレクションを大切に扱い、それぞれの作品に適切な安全管理措置を講じます。一部の作品のセレクションは、アトリウムにある13もの巨大なガラスに展示され、ほかの作品は4つの保存スタジオで保存されているあいだに見ることができます。映画と映像のコレクションは特別な鑑賞室で、貯蔵室に保管されている残りのコレクションはガラスの窓を通して見ることもできます。ガード付きのガイドツアーもあります。閉じた箱の中に保管されている版画やドローイングなどのコレクションを見るため、来場者は特別なコレクション研究室で申し込むこともできます」。
また、エックスは来場者がすべての貯蔵室にアクセスできることだけでなく、すべてのコレクションをインターネットを通して公開することも考えている。「これによって、すべての訪問者は個人的な選択を行うことができます。これはチャンスであり、大変革をもたらすことでもあります」。
1849年に開館した同館は、中世初期から現代に至るオランダやヨーロッパの絵画、印象派やシュルレアリスムの作品、アンディ・ウォーホルやデイヴィッド・ホックニーなど英米のポップ・アート、そして中世の陶磁器やルネッサンスのガラス、現代の家具やデザインなどを収集してきた。エックスは、「デポは、美術館の展示物とは性格が異なる」と言う。「18世紀と19世紀の作品は、オランダの美術ではあまり成功した期間と見なされていないが、(デポを通して)それを再発見する可能性があります。1930年代に購入したヨハネス・フェルメールの絵と思われた6つの絵(これらは後に美術品偽造者のハン・ファン・メーヘレンによるものだと証明された)のような、われわれの誤りも見せます」。
同館のコレクションのうち、約3万3000点はプライベート・コレクターからの寄贈作品が占める。デボの約1900平米およぶ一部は、民間のコレクター、企業の収蔵品、ほかの美術館の倉庫としてレンタルすることも可能。コレクターは匿名のままでもよく、プライベートの入り口から自分のコレクションにアクセスできる。
デポのオープニングがアートシーンに変化をもたらすと期待するエックスは、次のようにコメントしている。「デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲンは、アートに興味を持つ人々だけでなく、アートがどのように扱われているか、そしてどのように保存・復元・輸送されているかなど、多くのことに興味を持つすべての人々を惹きつけるでしょう。私たちは、これらのアート関連の物語を、オランダや海外からの訪問者に伝えることを楽しみにしています」。