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2019.6.9

ポロックから福沢一郎まで。6月号新着ブックリスト(1)

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。第1弾では、ジャクソン・ポロックの形象性や装飾性に注目した作品論から、今年東京国立近代美術館で回顧展が開催された画家・福沢一郎の著書を読み解く論考集まで、『美術手帖』6月号に掲載された注目の新刊を3冊ずつ紹介する。

近藤亮介(美術家)+中島水緒(美術批評)=評

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『失われたモノを求めて 不確かさの時代と芸術』

国内外で精力的に活動する美術作家によるエッセイ集。前半の書き下ろしでは、ハンナ・アーレントの「仕事」概念に着目し、2014年に起こった台湾でのデモ観察や欧米の批評家の議論を踏まえながら、現代社会と「モノ」との関係性について検討する。後半は、過去に『現代思想』などで発表された論考をまとめた内容で、前半で示した「仕事=作品」の可能性を、赤瀬川原平や郊外といった具体的なテーマから論じる。芸術に内在する問いが蒸発してしまった現代に、あえて「作品」の意味を問う1冊。(近藤)

『失われたモノを求めて 不確かさの時代と芸術』
池田剛介=著
夕書房|2400円+税

 

『超現実主義の1937年 福沢一郎『シュールレアリズム』を読みなおす』

1937年、日中戦争前夜の混迷した時期に刊行された『シュールレアリズム』。それは画家・福沢一郎が前衛美術の進展に役立てるべくまとめた本場のシュルレアリスムの概説書であり、当時の若き美術家たちの貴重な情報源だった。本書は原著の全文収録に加え、6人の研究者による『シュールレアリズム』精読の成果をまとめた論考集。参照された海外文献や図版の調査を通し、独自の抽象美術観や社会的背景が福沢の思想に与えた影響までを子細に読み解く。(中島)

キャプション

『超現実主義の1937年 福沢一郎『シュールレアリズム』を読みなおす』
伊藤佳之+大谷省吾+小林宏道+春原史寛+谷口英理+弘中智子=著
みすず書房|6800円+税

 

『ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性』

抽象表現主義の最重要作家と評されるポロックだが、その作品解釈をフォーマリズムの文脈のみに帰するのなら十分な理解には届かない。若手研究者が著した本書では、これまでの研究で等閑視されてきたポロック作品の形象性や装飾性に着目する。戦前から出現する絵文字や記号と無意識の関連性を明らかにするほか、壁画や飾り窓にも使われてきた絵画がどのように受容されてきたのか、ほかの作家に与えた影響などを検証。作品と言説をとらえ直すための新たな視座をもたらす作品論。(中島)

『ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性』
筧菜奈子=著
月曜社|4000円+税

『美術手帖』2019年6月号「BOOK」より)