「フリーズ・ニューヨーク」への参加を止めるギャラリーが続出
2012年に「フリーズ・ニューヨーク」がローンチして以降、同フェアの会期は、市内でアートフェアが複数同時開催される「フリーズ・ウィーク」として知られるようになった。17年には、マーストリヒト発の巨大フェア「TEFAF」が加わり、いまでは3月の「アーモリー・ウィーク」をしのぐのではと思われるほど、メディアで取り上げられるようになっている。今年は、「出展者がフリーズからTEFAFに流れているのでは」ということが話題となった。
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フリーズ・ニューヨークは毎年、マンハッタンの北東に位置するランドル・アイランドで開催されている。大型特設テントが張られた中での展示となるが、17年には浸水トラブル、18年は猛暑のなか、エアコンが止まるというアクシデントに見舞われ、出展者に不評を買っている。
今年のフリーズ・ニューヨークの出展者数は、去年の190から180に減少したという。大きな変化には見えないが、参加を止めたギャラリーには、ブラム&ポー、アントン・カーン、カステリ・ギャラリー、アルバーツ・ベンダ、ギャビン・ブラウンなど、大型フェアの常連たちが含まれているのが目を引く。さらに、ペース、マリアン・グッドマン、マシュー・マークス、スカーステッドなどは、フリーズ・ニューヨークへの出展をやめるだけでなくTEFAFへ参加を決めたということで、フリーズ・ニューヨークの求心力に陰りが出ているのではという憶測を呼んでいる。
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メガギャラリーの参加が増える「TEFAF New York Spring」
TEFAF New York Springの会場は、マンハッタンのアッパー・イーストサイドにある「パーク・アヴェニュー・アーモリー」。1881年に建てられた兵器庫で、現在はアートイベント、コンサート、芝居など、多くのカルチャー・プログラムが開催される場となっている。アクセス至便なのに加え、「オールドマネー」と呼ばれる、代々の富裕層が多く住むエリアの中心に位置しており、コレクターに来てもらいやすいという強みがある。アートフェアのロケーションとしてはこの上ない。
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今年は、世界各国から90のギャラリーが集まり、そのうちメガギャラリーが2割程度を占める。フェアのカテゴリーは「モダン・コンテンポラリーのアートとデザイン」と幅広く設定されているが、実際には、アッパー・イーストのコレクター層を強く意識した内容になっている。すでに確立したアーティストの作品が数多く、巨大作品の点数は控え目で、この一帯にある住宅の造りに適するようなサイズの作品が中心に揃う。
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会場に来ている人の年齢層は高く、真剣に作品に見入る人が多い。トークやパフォーマンス、特設展示なども、企画されているが、数は抑えられており「ビジネスのためのフェア」という印象が強く残る。
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会期後レポートによると、具体的な数字はないものの、過去2年をしのぐ来場者が集まったとのこと。ホワイト・キューブはマーク・ブラッドフォードの作品を275万ドル(約3億円)で売却。タデウス・ロパックのブースは完売。ゲオルク・バゼリッツの38点からなるドローイングのシリーズが、約112万ドル(約1億2300万円)近くで売れたという。ペースは、ジャン・デュビュッフェのプレゼンテーションに徹し、60万ドルから数百万ドル(約6600万〜数億円)の作品を複数売ることができた。ロンドンのギャラリー・カルディが出展したルチオ・フォンタナの作品は、200万ドル(約2億2000万円)で売れた。
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試されるフリーズ・ニューヨーク
毎年ランドル・アイランドで開催されるフリーズ・ニューヨークは、とにかくアクセスしにくいことで知られる。ミッドタウンから出ている専用フェリーが、「所要時間20分」とされているが、30分毎の運行で便利とは言い難い。タクシーやライドシェアサービスの利用が現実的であるが、ドライバーたちの「フリーズ」の認知度はまだ低く、帰りにUberを頼んでもドライバーが来られないというようなトラブルは付き物。グッゲンハイム美術館との間で運行されるシャトルバスは、去年まで15分毎の運行であったが、今年は1時間に1本のみに変更されており、アクセス面は改悪されている。
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去年の会期後プレスレポートでは、来場者はフリーズ・ニューヨーク史上最高の4万4000人を記録したと明記されているが、今年度版では、来場者数に言及されていない。悪天候に見舞われたこともあるが、来場者が落ち込んだのは間違いなさそうだ。そうは言っても、最終日午後の会場はまずまず混んでおり、「フリーズ」のブランド力はまだ衰えているようには見えなかった。
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今年は、26ヶ国から180のギャラリーが出展。例年のように、巨大作品・大型作品が多く、趣向をこらしたブースも目に飛び込み、インスタグラムなどのソーシャルメディアを意識したプレゼンテーションになっている。来場者の客層はTEFAFに比べると幅広いが、若い人が多い印象。
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エマージング・アーティストや創業15年以下のギャラリー、有名アーティストのあまり知られていない作品にフォーカスするゾーンが設けられたり、ラテンアメリカのアーティストを取り上げるエリアがあったりと、多様なコレクターにアピールするよう工夫されている。しかしフリーズのメインの顧客は、出展者。「厳しい選考で知られるフリーズに出展するのはステータス」という業界内でのイメージを崩すことなく、新しいギャラリーをフェアに取り込むスマートな方法とも見ることができる。
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会期後レポートの売り上げ報告を見ると、タデウス・ロパックが展示した、ロバート・ロンゴの作品が60万ドル(約6600万円)、ゲオルク・バゼリッツの作品が約56万ドル(約6200万円)で売れている。来場客の撮影スポットとなっていた、マルボロ・ギャラリーの展示したレッド・グルームスの作品は、55万ドル(約6000万円)で売れたという。すべての売り上げが報告されるわけではないので、これ以外に高額な取引があった可能性は大いにあるが、このほかレポート内に登場する売却価格のレンジは、これらを下回る。
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TEFAFがコンパクトな規模で、出展者にも来場者にも優しいつくりである反面、フリーズ・ニューヨークは規模が大きすぎ、作品をじっくり見るのに適した場とは言えない。アクセス面が改善されないかぎり、フリーズ・ニューヨークへ足を運ぶ人はさらに減り、出展者にとっても「魅力的なビジネスの場」とは言いがたくなってしまうのではないだろうか。両フェアの売り上げ報告を見るかぎり、セールがうまくいくかは会場の大きさとは連動していない。フリーズ・ニューヨークからTEFAFへの参加に切り替える出展者がこれからも増えるとすれば、他の巨大フェアのあり方にも、影響が出てくる可能性もある。来年の両フェアの動向にも注目したい。