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INSIGHT - 2019.3.9

作品保管のための最先端施設。ニューヨークのアートストレージ「UOVO」に潜入

日々新しい作品が生み出されるアートマーケットでの目下の課題のひとつは、「作品をどう保管するか」だろう。今後いっそうの需要が見込まれるアートストレージサービスのなかで、最先端の施設ときめ細かなサービスによって美術館、ギャラリー、アーティストらから絶大な支持を得るのが、ニューヨーク・ロングアイランドシティの「UOVO」だ。2014年の設立以来増設を続け、現在の利用者は1500を超える「UOVO」を訪問し、スタッフに話を聞いた。

文=國上直子

アートストレージ「UOVO」の内部 Courtesy of UOVO

アートストレージ「UOVO」の内部 Courtesy of UOVO

 世界のアートマーケットの42パーセントを占めるアメリカでは、頻繁に作品の高額取引に関するニュースが取り上げられる。しかし、その背後にある、作品を巡るロジスティックスが話題になることはほとんどない。昨今の作品の高騰・大型化に加え、地球温暖化の影響で増え続ける自然災害などを受け、「作品をどのように保管するか」は重要な課題になってきている。

 そんななか、アートストレージの需要がこれまでになく高まっている。アート作品の保管に関する舞台裏は、いったいどうなっているのか。ニューヨークにおいて、作品保管サービスを提供するアートストレージ「UOVO」を訪問し、話を聞いた。

 「UOVO」がサービスをスタートしたのは、2014年。創立者兼最高責任者のスティーブン・グットマンは、40年以上にわたって不動産開発に携わってきた人物で、アートコレクターとしても広く知られている。コレクターの立場から、なかなか納得のいくアートストレージを見つけられずにいたグットマンは、「それなら自分でつくってしまおう」と、「UOVO」を立ち上げるに至ったという。

「UOVO」の外観 Courtesy of UOVO

 不動産開発の見地から、ロケーションにはこだわった。「UOVO」のメイン施設は、マンハッタンから地下鉄で一駅、クイーンズ市のロングアイランド・シティに位置し、敷地は2万6000平米に及ぶ。公共交通機関で容易にアクセスできることと、大型貨物トラックが出入り可能なことから、この場所が選ばれた。

 利用者の主体は、美術館、ギャラリー、アーティスト、コレクター、アートアドバイザーなど。利用者数は着実に増え続け、いまでは1500を超えるという。サービス開始からすでに2つのストレージスペースをニューヨーク郊外に増設。今年の秋には、ブルックリンに新たな施設がオープンする予定。

「ビューイング・ルーム」の並ぶエリア。青い壁面は、グッドマン氏の所有するアート作品のひとつ Courtesy of UOVO

 建物内部を案内してくれたのは、マーケティング・コミュニケーションマネージャーのアン・マーソ。ロビーを抜け、管理されたエリアに入ると、美術館のような空間が広がり、そこには「ビューイング・ルーム」が並んでいる。

 このスペースは、海外のディーラーがアートフェア出展のためニューヨークを訪れる際、コレクターを呼んで作品を見せたり、ローカルのギャラリーが展示に向けて作品を出庫する前に、作品を壁にかけて選別作業を行ったりと、いわば「リモート・ギャラリー」として活用されることが多い。パーティーやトークイベントなどが開催されることもあり、スペースの使い方は利用者の必要に応じて様々だという。

ビューイング・ルーム内の様子 Courtesy of UOVO

 アートストレージというと、もともと別の用途だったビルが改造されているところが多いが、「UOVO」は、一からアートストレージとしてデザインされ建てられた、ニューヨークにおいて唯一の施設である。その利点が最も生かされているのが、「搬入ゾーン」。作品搬入時、トラックが屋内駐車場を経由し、直接専用ドックから、空調管理された建物内に作品を移すことができる。作品が外気や人の目に触れることを防ぎ、安全を確保するのが目的だという。

搬入ゾーン Courtesy of UOVO

 ビル全体の構造も、美術作品保管の上での利便性を念頭にデザインされている。「UOVO」は、外からはひとつの建物に見えるが、じつは3つの別々の建物が組み合わさってできている。これは保険上の理由から。複数の作品に対して保険をかける際、万が一の場合の被害を抑えるため、保険会社は所有者に作品を分散管理するよう義務付けている。

 そのため従来、作品保管には、別々のロケーションにあるストレージを確保する必要があったが、その間の行き来はディーラーやコレクターにとって大きな負担となっていた。「UOVO」は、建物の構造を分けることで、この問題を解決。利用者はそれぞれの建物に作品を分散させることで、保険会社の要件に応じることができる。

 一角には、施設利用者向けのカフェテリアも存在する。利用者のなかには、作品のリサーチや目録作成のために施設内で終日過ごす人が多いため、彼らが休憩を取れるようにこのスペースを設けた。利用者のニーズに積極的に対応するのは、「UOVO」の大事なミッションだという。

 ストレージエリアには、白塗りのシャッターがずらりと並ぶ。各ユニットは同じサイズに見えるが、内部は顧客ごとに高度にカスタマイズされているそうだ。1フロアを丸ごと占める利用者もいるという。フロアの角に、ギャラリーの名前が掲げてある扉がひとつあった。実店舗を持たないディーラーが、「UOVO」内のスペースを借りて、ギャラリーとして利用しているのだという。意外なスペースの使い方ではあるが、経済面、安全面を考慮すると、非常に合理的である。

ファッションデザインのアーカイブ Courtesy of UOVO

 最近はファッション業界の利用も増えている。その背景にあるのは、近年進んでいる「ファッションのアート化」だ。「ファッションをテーマにした、大型展覧会が次々と開催されるようになり、ファッションブランドの方でも、過去のデザインを作品として管理・保存するように意識改革が進んでいる」とマーソは語る。ある有名ブランドは、「UOVO」のストレージをアーカイブにして、新人デザイナーなどが過去のデザインを学ぶ場として活用しているという。

 日々、アートマーケットには新しい作品が加わり、「守るべき価値ある作品」は増えるいっぽうだ。そして、アートストレージサービスの需要は、これから増加の一途を辿ることになる。「UOVO」は、アートストレージサービスのなかでは、後発組にあたるが、それが幸いしてアート界の最新ニーズに柔軟に対応できているように見えた。

 「UOVO」のサービスに関しては、各利用者に割り当てられる担当アカウント・マネージャーがすべてに対応する。これは、利用者がストレスを感じないようにとの配慮からだという。最先端の施設ももちろんだが、こういったきめ細かいサービスへのこだわりが何よりも印象的だった。ハード面からもソフト面からも完璧を目指す「UOVO」は、アートストレージサービス業界のハードルを確実に引き上げている。作品を保管するだけが役目ではなくなってくる、そんな未来のアートストレージの姿が、「UOVO」のツアーを通し強く伝わってきた。