続く政府機関閉鎖
現在アメリカでは、メキシコとの国境沿いに壁を建設するための費用57億ドル(約6300億円)を連邦予算から捻出したいドナルド・トランプ大統領と、「壁に不正入国を食い止める効果はない」と考える民主党の間で対立が続いている。
民主党が過半数を占める下院では、壁の建設費を含まない予算案を可決しようとしているが、予算を成立させるには大統領の署名が必要になるため、依然膠着状態だ。この間、連邦政府からの資金で運営される政府機関が一部閉鎖に追い込まれている。
およそ80万人いる連邦職員のうち、人命・財産の保護、また政府機関によって必要不可欠と定められた役職に従事する職員は、現在無給での勤務を強いられている。いっぽう、「重要性を伴わない」役職に就く職員約38万人は、無給の自宅待機を言い渡されている。1月16日時点で26日目に突入した今回の「政府閉鎖」は、アメリカ史上最長となっており、未だ収束の兆しが見えない。いったん政府が再開されれば、この間の給与は遡って支払われるものの、当面の生活費の工面に苦心する職員も少なくなく、長期化すれば彼らの生活はさらに逼迫する。また「重要性を伴わない」とされる機関であっても、閉鎖が長引けば、国民の生活に重大な影響を与えかねない。このことを盾にとり、「壁」予算を力づくで確保しようとするトランプ大統領の意図が背景にはあるようだ。
影響を受ける文化施設
連邦予算で運営される文化施設も「政府閉鎖」の影響を受け始めている。ワシントンD.C.を中心に、芸術、自然、歴史、産業技術など多岐にわたる専門の博物館・研究施設群から構成されるスミソニアン博物館がそのひとつ(*)。
同館の運営は連邦予算で賄われ、普段は無料で一般公開されている。アメリカの国威をかけた知が結集する機関とも言え、その所蔵品点数は1億5400万点にも及び、世界最大の博物館群として知られている。国内外から年間約3000万人が訪れるアメリカ屈指の観光名所であるが、1月2日からすべての施設が休館へと追い込まれている。
スミソニアンに隣接するナショナル・ギャラリーも、「政府閉鎖」を受け、1月2日から休館している。同館はワシントンD.C.において欠かせない観光スポットで、ルーヴル美術館(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、大英博物館(ロンドン)などに次ぐ、世界第7位の集客数を誇る。
14万5000点に及ぶ所蔵作品の中には有名絵画も多く含まれており、スミソニアン同様、連邦予算で運営されているため入場は無料となっている。直近では、レイチェル・ホワイトリードの個展が開催され好評を博していたが、会期半ばで「政府閉鎖」が勃発、終盤は観客に見られることなく展示期間が終了してしまうという寂しい事態が起こっている。
スミソニアンもナショナル・ギャラリーも、「政府閉鎖」後の12月中は予備予算で運営を続けていたが、年初より休館を余儀なくされている。一般公開以外にも、展示の撤収や、新しい展覧会の設営、他の施設への作品貸与などの作業に影響が出始めているという。またスミソニアンにおいては、閉館が1週間続くごとに、飲食サービス、IMAXシアター、パーキングから得られる収益、92万ドル(約1億円)が失われる見込みだ。
通常、年末年始は閑散期でワシントンD.C.を訪れる観光客は少なくなるものの、年間3500万人の集客を誇るこれらの施設の休館は、観光によって成り立っている地元経済にも深刻な打撃を与えつつある。「政府閉鎖」の長期化は、連邦職員以外の人々の生活にも悪影響を及ぼす可能性が高まっている。トランプ大統領の無謀な公約実現のために、多くのアメリカ市民が巻き添えになっているように見える今回の「政府閉鎖」。終わりへの糸口は見つかるのかどうか、注視していきたい。
*ーー閉鎖されているスミソニアン博物館の施設一覧
ワシントンD.C.
国立アフリカン・アメリカン歴史文化博物館、国立アフリカ美術館、国立航空宇宙博物館、スミソニアン・アメリカ美術館、国立アメリカ歴史博物館、国立アメリカ・インディアン博物館、アメリカ美術アーカイブ、芸術産業館、フリーア・ギャラリー、ハーシュホーン博物館、国立自然史博物館、国立肖像画美術館、国立郵便博物館、レンウィック・ギャラリー、S・ディロン・リプリー・センター、サックラー・ギャラリー、スミソニアン協会本部(キャッスル)、スミソニアン・ガーデン
ワシントンD.C.近郊
アナスコティア・コミュニティ博物館、スミソニアン国立動物園、国立航空宇宙博物館(スティーブン・F・ウドバーハジー・センター)
ニューヨーク
クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン博物館、ニューヨーク国立アメリカ・インディアン博物館