「フォー・フリーダムズ」は2016年に、アーティストのハンク・ウィリス・トーマスとエリック・ゴッツマンによって、「スーパーPAC」と呼ばれるアメリカの政治資金管理団体として設立された。多くの「スーパーPAC」が、個人から資金を集め、特定の候補や政党の支援活動を行うなか、「フォー・フリーダムズ」は「アートを介して、人々の政治参加を促すこと」を目的とし、特定政党を支持していないのが大きな特徴。「フォー・フリーダムズ」はこれまで、展覧会、パブリック・プログラム、ビルボードキャンペーンなどを通じて、市民の政治への関心を高める活動を進めてきた。
今回立ち上がった「50 State Initiative」は、今年11月に開かれる中間選挙に狙いを定めたプロジェクト。上院の3分の1、下院の全議席が入れ替わる重要な政治的節目となる中間選挙に向け、9月よりアメリカの全州及びワシントンD.C.、プエリトリコにビルボードをひとつずつ立て、市民に政治参加を喚起するメッセージを掲げていく。「フォー・フリーダムズ」はこれまで一部の州で、ビルボードキャンペーンを行ってきたが、全米規模で行うのは、今回がはじめて。プロジェクトが実現すれば、「アメリカ史上最大のクリエイティブ・コラボレーション」になるという。
ビルボードは、サム・デュラント、マリリン・ミンター、キャリー・メイ・ウィームスなどのアーティストが手がけることが決まっており、現在、Kickstarter上で資金を募っている。州ごとにページが設けられ、目標金額は各州3000ドルとなっている。募金は1口10ドルから可能。
「50 State Initiative」には、すでに175名のアーティストと200を超える美術館・大学・ギャラリーなどが賛同しており、彼らの協力のもと、討論会や展覧会を開催し、市民に地域や国の抱える問題について考える機会を提供する。例えば、昨年、白人至上主義者がデモを行い、反対グループと衝突し死者が出た、ヴァージニア州のシャーロッツビルでは、地元・フレーリン美術館の協力で、一般市民の参加する意見交換会と、アート制作を通じ、地域における奴隷と人種差別の歴史について学ぶプログラムが開催される。
「フォー・フリーダムズ」共同設立者のゴッツマンは「アートは民主主義に不可欠。目指しているのは、アートを市民生活の中心に据えること」と語る。同じく設立者のトーマスは、「トランプ大統領が選出された先の選挙を受けて、特定の政党に偏らず、右派・左派という二者択一で政治をとらえない、という自分たちの理念をさらに強化していかなければならないと感じている。アート、アーティスト、そして彼らがもたらす対話の力を信じている」としている。
アート界は、反トランプ派が多いと見られているが、安易にトランプ非難に走るのではなく、自分と政治のつながりについて考えるところから始めることで、社会変革を訴える「フォー・フリーダムズ」。アートを介した地道な対話を通じて、公共の利益につながる判断ができる有権者を育てていく。不毛で、しばしば稚拙な政治批判が限界にきているような現状を鑑みると、有権者の意識を変えていくことが、じつは社会を変える一番の近道なのかもしれない。トランプ時代のアメリカに、アーティストたちがどのようなメッセージを掲げるのか、楽しみである。