EXHIBITIONS

クリスチャン・マークレー「Voices」

2021.11.24 - 2022.03.12

クリスチャン・マークレー Tragic Mask 2020 © Christian Marclay Courtesy of Gallery Koyanagi

Installation view at Voices, Gallery Koyanagi Photo by Keizo Kioku

Installation view at Voices, Gallery Koyanagi Photo by Keizo Kioku

 クリスチャン・マークレーによる個展「Voices」がギャラリー小柳で開催されている。「Voices(声)」と題された本展は新作のコラージュと木版画の技術を取り入れた大型作品を展示。マークレーがこれまで続けてきた、アートとポップカルチャーから見出した素材をサンプリングし、サウンドとイメージの関係を考える試みに連なるものとなる。

 マークレーは1955年アメリカ・カリフォルニア州に生まれ、スイス・ジュネーヴ育ち。ボストンのマサチューセッツ芸術大学とニューヨークのクーパー・ユニオンに学び、79年にレコードとターンテーブルを楽器として用いたパフォーマンスを開始。これはターンテーブルを楽器として用いたもっとも早い例のひとつとされている。80年代以降は即興的なパフォーマンスのほか、聴覚と視覚の結びつきを探る作品を映像、写真、彫刻、絵画、版画などメディアを往還してつくり続けている。

 今回の「Voices」で発表されるコラージュはすべて、2020年にマークレーがロックダウンを経験した際につくり出した。「Toxic Talk(害のあることば)」と題された一連のコラージュでは、マンガやコミックから巧妙に切り出された怒った横顔のイメージが両端に配され、それぞれの口から出ているくねくねとしたラインが互いに絡み合っている。それらのラインは声にかたちを与え、その声は私たちに恐れを想起させ、しばしば恐れを怒りへと導く。

 恐れは鮮烈なコラージュ《Collective Emotion(1)(集合的な感情)》のテーマでもある。マンガやコミックから集められた叫んでいる無数の顔を、まるでコーラスのように赤い背景にコラージュした本作は、積み重なった恐れがアンサンブルを成し、不安の集合体を暗示するかのようだ。

 本展のもうひとつのハイライトである木版画を用いた3点の大型作品は、デジタル技術と伝統的な手法を組み合わせ、同じくマンガやコミックからとられた小さなコラージュを原画として制作された。スキャンして拡大されたイメージを、木片を集積圧縮したOSB合板にコンピュータ制御で機械的に彫って木版をつくり、木版はエッチングの圧延ローラーにかけ、合板の木片のパターンがもつ表現豊かでユニークな模様を作品に与えている。これらの木版画のシリーズは、エドヴァルト・ムンクの《叫び》(1895)のリトグラフに触発されたものであり、マークレーの《Scream(叫び)》のキャラクターたちは目には見えるが聞くことのできない、拡がっていくトラウマを表している。

 そしてマークレーの最新「グラフィック・スコア(図案楽譜)」の《No!》もまたコミックのコラージュで構成されている。《Manga Scroll》(2010)など先行するグラフィック・スコアではオノマトペが本来もっているアクションから切り離されていたのに対し、《No!》では発声の仕方や表情による表現、からだの動きが演奏者のパフォーマンスを促すようにつくられている。

 この新作のグラフィック・スコア《No!》は、現在、東京都現代美術館で開催されている大規模個展「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」(〜2022年2月23日)の関連企画で、ボアダムスのEYEによって、また小田原文化財団 江之浦測候所でのマークレーのパフォーマンス・プロジェクト「Found in Odawara」(2021年11月27日、28日)では巻上公一によって演奏された。