EXHIBITIONS

松井えり菜「アストラル・ドリーマー」

2024.07.20 - 09.07

子供部屋のアトリエ 2022 キャンバスに油彩 41 × 32 cm ©︎Erina Matsui 撮影:坂本理

 ANOMALYで、松井えり菜による個展「アストラル・ドリーマー」が開催されている。

「変顔」の自画像で知られる松井えり菜は、2004年GEISAI #6で金賞を受賞しデビュー。以後、自画像やその絵画史、また自己の作品のルーツについて考察を続け、制作、発表してきた。今年、市原湖畔美術館で開催された「市原湖畔美術館子ども絵画展」では、ゲストアーティストとして子供の絵画とともに新作を発表するなど、現在も精力的に活動を続けている。

 松井にとっての絵画制作とは、現実では叶わない理想郷を自由に構築できる場であり、スペクタクルな宇宙空間と日常の自分自身の対比など、スケールの大きな世界を描くことのできる手段であった。漫画やアニメから大きな影響を受けてきた松井は、なかでも子供の頃に出会った「ベルサイユのばら」や「魔法使いサリー」など少女漫画に傾倒し、ブロンドの少女や西洋文化に強く惹かれてきたという。そのような憧れの対象に変身するような自画像も描いてきたが、多くは「変顔」と呼ばれる滑稽な表情や極端にデフォルメされた顔であった。「変顔」は、自分の滑稽さを素材にして他者と笑いや感情を共有したいという若者たちから生まれた流行で、1980年代生まれの松井はそのものをキャンバス上で体現しながら、絵画の世界にセンセーションを巻き起こす。

 近年、在外研修でパリに赴き制作を進めるなかで、何を描いて / 何を描かないかを改めて考察し、むしろ描かなかったことで広がる無限空間に着目。「変顔」を描く「上手さ」に通じるリアリズムから距離を置き、入れ子状(鏡を通して自分を見ている自分を天井の視点から描く)の視点から描いた自画像や、少女漫画のような素敵な自分ではなく、憧れのパリに居て朝起き抜けで髪がボサボサな(しかしルーブル美術館のトレーナーを着ている)自分自身のリアリティを描き、鳥瞰する視点が絵画に現れるようになった。年齢を重ねいまある自分自身と、脳内アニメ的自分との乖離が、松井えり菜の場合は大きいのだという。

 以前の自画像は「インターネット上でのコミュニケーションが氾濫する昨今、人は自らの顔を隠しのっぺらぼうのような世界をつくり上げているのではないか」という松井の問いと、「1ミリ表情筋が動いただけで、様々な情報を伝える顔」に「宇宙空間のような無限の広さ、可能性」を示す松井だが、今回発表する作品は、「描かないこと」で現れる世界と、他者の視点が展開される。