EXHIBITIONS

ザ・トライアングル

川田知志:築土構木

2024.07.16 - 10.06

本展の制作風景より

 京都市京セラ美術館で「ザ・トライアングル 川田知志:築土構木」が開催されている。

 川田知志は、伝統的なフレスコ画の技法を用いながら、都市や郊外の均質化した景観にある、その地域に特徴的な要素を題材として作品を制作してきた。

 本展の新作の制作にあたり、川田は、郊外の景観を形づくる土木技術を手掛かりにリサーチを実施。道路などの開発工事に際し生じる人工的な斜面である法面は、コンクリートなどの構造物によって保護され、とくに戦後、各地に独特の景観を生み出した。

 また、19世紀末に誕生し、都市の経済や産業の発展に寄与した巨大な送電塔は、機能的な幾何学構造で、山林から住宅地まで様々な景観のなかに唐突に現れる。都市と都市をつなぐ郊外には、こうしたアノニマスな人工物と自然の共存、あるいはせめぎあいによって構成される、観光名所などとは対極の、しかし誰もが思い浮かべ得る現代日本の典型的な景観が広がっている。

 本展では、こうした郊外をモチーフとし、色とりどりの造形が地上と地下の展示空間全体に展開。地上では壁画の表層を移し替える技法「ストラッポ」を用いて布地に移された壁画が3面のガラスを覆うように展示され、その両面からみることができる。地下の展示室では、地上と同じ下絵を用いながらも、漆喰を支持体に異なる色彩で描かれる。同じイメージの反復は、幹線道路沿いにチェーン店や緑地が繰り返される典型的な郊外の景観を意識させるだろう。また、法面や送電塔のイメージは景観から切り離され、断片化され、身体を包み込むようなインスタレーションとして再構成される。

 本展の会期の最後には、地下の壁画もまたストラッポ技法により剥ぎ取られる予定だ。市民のための技術によって生み出された景観が、市民のための芸術として描かれるとき、そこに立ち上がるのは私たちの声や記憶を宿した、新しい風景となるかもしれない。