EXHIBITIONS

宮永愛子展「くぼみに眠る海」

©︎ MIYANAGA Aiko Courtesy Mizuma Art Gallery

 ミヅマアートギャラリーでは、宮永愛子の個展「くぼみに眠る海」を開催する。

 近年も精力的に作品発表を続けている宮永は、2019年度(第70回)芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞、昨年は東京ビエンナーレ2020/2021や「コレクションとの対話:6つの部屋」(京都市京セラ美術館)、「世界は人間なしに始まり、人間なしに終る」(国立台湾美術館)に参加するなど国内外で活躍している。

 宮永の実家は曾祖父である初代宮永東山(1868〜1941)が開いた宮永東山窯だ。コロナ禍に期せずして約16年ぶりに帰郷し、宮永は現在、京都で過ごしている。110年ほど前に築窯された和風住宅に洋間が設けられた住まいは、陶彫が数多く生み出された場所でもある。それらの大量の石膏型は、整理が追いつかないまま家の工房に山積みになって置かれ、宮永は幼い頃から型のある景色のなかで生活してきた。

 宮永にとって近年の外出制限のある生活で、自然と家族や身の回りの日常に目を向ける機会が増えたことは、改めてその型の存在に気づくきっかけとなったという。作品としては展示されることのない脇役としての石膏型。そこにある凹みとしての不在(空間)に惹かれ、いまではほぼ現存していない陶彫に思いを馳せる時間が流れ始めた。

 本展では、石膏型の凹みに永く眠っていた不在を、ガラスで湛えいまの時間で取り出すことを試みた作品を発表する。また、凹みの表層をなぞるかのように、ナフタリンで薄く象られた彫刻が並び、留まっていた時間から解放され新しい時間を刻んでいく。

「結局は人にまつわるもの、人の時間に興味があるんだと思います。私のなかで不在は存在であり、不在だから『ない』とは感じません。」と語る宮永。型の隙間が、突如として実態のあるものとしてかたちを成し、重さをもって現れたことは、自分の見たことのない過去が会いに来てくれたような感覚だったという。

 約100年前の人々の生活や、アール・ヌーヴォーに憧れ探究心と情熱を持って制作していた東山窯の情調をいまの景色に重ねた、宮永の新作を会場で体感したい。