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マウリッツ・コルネリス・エッシャー

Maurits Cornelis Escher

 マウリッツ・コルネリス・エッシャーは、図形を反転または回転させて増殖させる「平面の正則分割」の手法や、錯視を利用した「だまし絵」で知られるオランダの版画家。1898年オランダ、フリースランド州レーウワルデン生まれ。中学校の美術の授業で版画技法のひとつ・リノカットを知り、18歳のときに最初の版画作品を制作する。1919年、ハールレムの建築装飾大学に入学。版画家のサミュエル・イェスルン・デ・メスキータと出会い、版画を学ぶ。22年、イタリアとスペインを旅行。オランダにはない地形や、とりわけアルハンブラ宮殿の幾何学的な装飾に感銘を受ける。一時シエナに滞在して制作に没頭。多くの風景版画を手がける。24年に帰国し、オランダでの初個展を開催。同年に旅行先で出会ったイエッタ・ウミカーと結婚し、ローマに拠点を移す。

 31年『月刊エルゼビア』誌で版画家として初めて紹介され、アムステルダム国立美術館が作品26点を買い上げる。35年、ファシズムから逃れるため一家はスイスに移住。アルハンブラ宮殿への再訪をきっかけに、平面の規則的な分割に対する関心を強め、風景版画から「平面の正則分割」や「だまし絵」などの心象風景へと作風を変化させる。37年に、正則分割を使った代表的なシリーズ「メタモルフォーゼ」(1937-67)の制作を開始。41年にオランダに戻り、バールンに定住する。アムステルダム国立美術館での「ナチに協力しなかった作家の展覧会」(1945)、ベルギー・アントワープでの「オランダのグラフィック・アート展」(1950)に参加。51年にアメリカの雑誌『ライフ』『タイム』にて展覧会の記事が掲載され、54年にワシントンDCでの個展が実現する。

 晩年は大学での講演会などにも登壇し、58年に自身の研究をまとめた書籍『平面の正則分割』を出版。67年に「メタモルフォーゼ」シリーズ、69年に遺作《蛇》を完成させる。72年没。主な作品に《相対性》(1953)、《滝》(1961)、《昼と夜》(1938)など。その作品は、正則分割を独自の理論で発展させた、無限に続くような不可思議な構図が特徴で、その他の作例として《写像球体を持つ手》(1935)、《球面鏡のある静物》(1934)など鏡像の使用も好んだ。日本では、「現代オランダ版画展」(神奈川県立近代美術館、1953)で作品が初めて展示され、澁澤龍彦の書籍『幻想の画廊から』(美術出版社、1967)の表紙や、雑誌『少年マガジン』での特集を機に、日本での人気に火がつく。2018〜19年にかけて大規模回顧展「ミラクル エッシャー展」(上野の森美術館、あべのハルカス美術館、愛媛県美術館)が開催。