• HOME
  • MAGAZINE
  • SERIES
  • 30人が選ぶ2025年の展覧会90:畠中実(キュレーション/批評)

30人が選ぶ2025年の展覧会90:畠中実(キュレーション/批評)

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は、キュレーション/批評の畠中実によるテキストをお届けする。

文=畠中実

第18回 shiseido art egg すずえり(鈴木英倫子)展「Any girl can be glamorous」展示風景より、《メルクリウス - ヘディ・ラマーの場合》(2022-) 撮影=編集部

 2025年の展覧会ベスト3ということで、当然30人の選者がいれば、それぞれの観点によってこそ、その広がりが示される。それこそが望まれているはずである。自分の役割を意識したということでは必ずしもないが、それを抜きにしても、自分やだれかにとって、2025年にあったことを忘れずにおきたい展覧会を挙げる。

第18回 shiseido art egg すずえり(鈴木英倫子)展「Any girl can be glamorous」(資生堂ギャラリー、4月16日~5月18日)

第18回 shiseido art egg すずえり(鈴木英倫子)展「Any girl can be glamorous」展示風景より、《ピアノは魚雷にのらない》(2025) 撮影=編集部

 資生堂ギャラリー主催による第18回 shiseido art egg賞を受賞した、すずえり(鈴木英倫子)の個展「Any girl can be glamorous」は、同賞のファイナリストに選出された3名の展覧会のひとつとして開催された。すずえりは音楽家としても長く活動してきたが、近年はトイピアノや電子回路を組み合わせた装置、手づくりのデヴァイス、可視光通信技術を用いたインスタレーションにも注力している。

 本展は、近年のすずえりの活動の集大成として、とりわけ1930年代にハリウッドスターとして一世を風靡し、同時に発明家でもあったヘディ・ラマーという女性に着目した。彼女を題材に、当時の社会における女性とテクノロジーの状況に光を当てるとともに、会場の使用法などを含め、全体の構成、内容、スケール、完成度のいずれにおいても優れた展示となっていた。

 メディア・アートが、技術によるアートではなく、技術についてのアートであると言われるように、本展では技術的な歴史を遡行し、その背景にあった様々な時代的、社会的な状況を、新旧メディアを用いて鮮やかに描き出し、強い印象を残した。

「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」(ワタリウム美術館、2024年12月21日~25年3月30日)

「雨宮庸介展 まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」展示風景より 撮影=編集部

 前年に山梨県立美術館で開催された、LABONCHI 02. 雨宮庸介「まだ溶けていないほうの山梨県美」(2024年2月27日~3月24日)の続編ともいえる本展は、こちらもまた、近年の雨宮の活動の集大成とも言うべき内容であった。とりわけ、ワタリウム美術館という会場を、リアルとバーチャルを行き来するように用い、展示室のみにとどまらず建物全体を会場とした構成によって、まさに「体験する展覧会」となっていた。

 近年のバーチャル・リアリティ技術を援用したヘッド・マウント・ディスプレイで鑑賞する作品を中心に、現実というもののステータスをバーチャルの側から見返すような、現実と作品世界が裏返ってしまうような体験は、雨宮のキャラクターとともに、体験後にしばらく現実にこびりついてしまう。

 そして、これまでの雨宮の作品が、こうしたXR技術(現実と仮想を融合する技術全般)を使用する以前から、体験者(鑑賞者)の意識下の現実の変容、現実と仮想のゆらぎを扱ってきたことが、あらためてよくわかる個展でもあった。

「養⽼天命反転中! Living Body Museum in Yoro」「特別展示 evala サウンドインスタレーション新作」(養老天命反転地、10月25日~11月17日)/「特別公演 NEON DANCE + evala + 大巻伸嗣」(11月1〜3日)

養老天命反転地記念館・養老天命反転地オフィスにて、evala《perennial》 撮影=灰咲光那
楕円形のフィールドにて、中央は大巻伸嗣《A Continuum: Ladder》の展示風景 撮影=灰咲光那

 いつも疑問に思っていたのは、荒川修作とマドリン・ギンズの宿命反転の場には、いったいどのようなサウンドスケープが存在するのだろうか、ということだった。それが、実際の公園施設として実現された養老天命反転地の広大な屋外空間で実現された。巨大なすり鉢状の空間で展開されるマルチチャンネル・サウンド・インスタレーションであり、その空間内のそれぞれの場所で環境として聞こえ、実際の鳥の鳴き声や雷などの自然音とも融和する。非在の音のリアリティを扱うサウンド・インスタレーションとしても、これほど大規模なものはあまり例がないのは間違いない。聴くことを超えて、宿命を反転させるべき身体に効く音とは、いったいどのようなものなのかを考えさせられた。

 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]での「evala 現われる場 消滅する像」展は(2024年12月14日~25年3月9日。こちらも2025年の展覧会だが、私は企画者のため対象外)、ほぼ音のみによる場にフォーカスした展覧会として、本展と補完関係にあると言えるだろう。夜間には、モニュメンタルな大巻による彫刻(どことなく「プリズナーNo.6」ぽい)とライトワークが夜を昼に反転させ、NEON DANCEのダンサーとともに、静かにスペクタキュラーなパフォーマンスを繰り広げた。

編集部