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TODA BUILDINGにギャラリーコンプレックスが入る意義とは? 「売る」だけではない広がりを

東京都中央区京橋で、2024年11月にオープン予定の「TODA BUILDING」(以下、TODAビル)。地上1階から6階の低層部が、芸術文化エリアとしてパブリックアートやミュージアムなどで構成されるのだが、その3階部分がギャラリーコンプレックスとなる。入居する4軒のギャラリー(小山登美夫ギャラリー、タカ・イシイギャラリー、KOSAKU KANECHIKA、Yutaka Kikutake Gallery)の代表4名に話を聞いた。

聞き手・文=中島良平 ポートレイト撮影=稲葉真

左から、金近幸作、小山登美夫、石井孝之、菊竹寛

これまでにない客層を開拓

──4軒がTODAビルに入居することになった経緯からお聞かせください。

小山登美夫/小山登美夫ギャラリー(以下、小山) 最初に話をいただいたのが、4年ぐらい前だったと思います。京橋に戸田建設の新しいビルができ、3階に現代美術のギャラリーを設置したいということで、ご相談がありました。タカ・イシイギャラリーさんはすでに決まっていたので、金近くんと菊竹くんに声をかけさせてもらいました。

石井孝之/タカ・イシイギャラリー(以下、石井) 空間レイアウトができていたから、スムーズにいろいろと決まりましたよね。

小山 共有のスペースや、4軒のギャラリーのレイアウトがすでに決まっていたので、割とすんなり決まりました。

小山登美夫
石井孝之

──小山さんと石井さんはこれまでにも複数のスペースを運営されてきましたが、金近さんと菊竹さんは2店舗目のオープンですね。金近さんは天王洲と、菊竹さんは六本木と、どのような差別化を行う予定ですか。

金近幸作/KOSAKU KANECHIKA(以下、金近) 私はあまり差別化を考えてはいません。そもそも取扱作家数が多くないので、天王洲と京橋で同じ作家の展覧会を同時開催できれば、というのがひとつアイデアとしてあります。

菊竹寛/Yutaka Kikutake Gallery(以下、菊竹) 私の場合は、六本木のピラミデビルのスペースと大体同じ広さで、空間的なつくりも近いので、むしろ差別化しようと思っています。最初の1年か2年は、毎回テーマを考え、グループ展形式の展示を続けていく予定です。

金近幸作
菊竹寛

──ワンフロアに4軒はどのようにレイアウトされているのでしょうか。

小山 廊下があって、片方に2軒、もう片方に2軒が並ぶイメージです。広さは、菊竹くんのところが少し狭くて、残り3軒が同じくらいの広さですね。それぞれ違う建築家が内装を手がけるのですが、タカ・イシイギャラリーが田根剛さん、小山登美夫ギャラリーが西澤徹夫さん、KOSAKU KANECHIKAが石田建太朗さん。

菊竹 Yutaka Kikutake Galleryは幼馴染の建築家・植原雄一さんにお願いしています。

小山 内装もそれぞれ楽しめると思いますよ。

ギャラリーコンプレックスのパース 提供=戸田建設

──現在も小山さんと石井さんが六本木のcomplex665、菊竹さんも六本木のピラミデビル、金近さんが天王洲のTerrada Art Complexと、それぞれギャラリーコンプレックスで営業されていますが、京橋のTODAビルではどのような違いが生まれるとお考えでしょうか。

石井 まず六本木の特徴としては、海外のお客さまが多いです。それと、complex665はわざわざそこを目指して来てくれるお客さまばかりで、ふらっと入ってくる人はあまりいません。京橋はおそらく、ふらっと入ってくる人が六本木よりも増えるんじゃないかなと思いますね。

小山 アーティゾン美術館が隣にあるのは大きな利点がありますね。いま、六本木でも天王洲でも、コンプレックス内のギャラリーが同じ日にオープニングレセプションを行うことは基本的にありませんけど、アーティゾン美術館の展覧会に合わせて、4軒でオープニングを同日にする機会をつくってもいいかもしれません。

金近 天王洲も、寺田倉庫さんのイベントに合わせてお客さまが増えることはありますが、基本的に直接目指して来てくださる方が多いので、アーティゾン美術館の来館者や、TODAビルに来た方が立ち寄ってくださるのではないかという期待はあります。

菊竹 例えばアーティゾン美術館と連携をとりながら教育プログラムを企画するなど、お客さまの行き来が生まれることに加えて、近隣のスタッフ同士も良い関係を築けたら、京橋エリアとして面白い動きを生み出せるのではないかと思います。

中央通り側から見た広場のパース 提供=戸田建設

「売る」だけはない展開も

──TODAビル1階にはTHE CITY BAKERYとArtStickerによる「Gallery & Bakery Tokyo 8分」が入居し、1〜2階ではパブリック・アートも展開されます。4階のホールのイベント、6階のミュージアムの来場者もいらっしゃるので、隣のアーティゾン美術館とあわせて回遊性には期待できそうですね。

小山 6階はソニー・クリエイティブプロダクツさんが運営する漫画や音楽などを扱うミュージアムだから、アーティゾン美術館の来館者ともまた違ったタイプの方々が集まりそうですね。

石井 1階から6階に来るお客さんだけでなく、戸田建設さんに来社される方にも立ち寄っていただければありがたいですね。

小山 ビルを建てる人が多く来られるわけだから、アートを飾りたいと思って購入してもらいたいしね(笑)。それは冗談としても、TODAビルのオフィスで働く人はもちろんですし、それだけではなく会社も多くて、何しろ働いている人たちが多い通りに面しているわけですから、六本木でも天王洲でも出会わないような方に来ていただける可能性は高いですね。

小山登美夫と石井孝之

──京橋は銀座と日本橋に挟まれた場所に位置していて、以前から古美術商が軒を連ねる街でもあります。

小山 古美術商に足を運ぶコレクターに来ていただけたら嬉しいし、こちらから古美術や浮世絵を扱う画廊などを紹介することもできますよね。金近くんのところは初回の展示が萩焼の家元の個展じゃなかったっけ。

金近 ええ、萩焼の十三代 三輪休雪さんの個展です。三輪さんは百貨店での個展が多く、また、京橋エリアの古美術関係の方もご存じの作家ですので、いつもの客層とは異なる方々がご来場されると思います。三輪さんの個展を通じて、古美術の分野と現代アートがつながるきっかけが生まれたら嬉しいですね。

金近幸作

──京橋という地域らしい広がりに期待がもてますね。ちなみに、それぞれのギャラリーのオープニング展の予定を聞かせていただけますか。

小山 杉戸洋さんの個展です。

石井 ポートレートをテーマにしたグループ展を企画しています。

菊竹 奈良美智さんとともにグループ展をつくる予定です。

──オープニングのラインナップを伺うだけでも、それぞれの個性がワンフロアに集まることに期待が高まります。

小山 4軒とも展示も違うし、売り方も違うので、それぞれの違いが近くで見えるのは面白いと思いますね。商業施設の色が濃いビルでもないし、ワンフロアにオーソドックスな構えでギャラリーを営業できるから、我々としてもあまりこれまでとスタンスを変えずに美術を見せられる場所になります。それが街のど真ん中とも言えるビルに入居するのは結構珍しいですね。

石井 海外でもこういうギャラリーコンプレックスのかたちは珍しいと思います。

パブリックアート・プログラムが展開される共用部分のパース 提供=戸田建設

──TODAビルのようなアートファンの興味を引く場所ができる一方で、マーケットに目を向けると、2023年の世界美術品市場を分析するアート・バーゼルとUBSの「The Art Basel and UBS Global Art Market Repot」によると、世界における日本市場のシェアは1パーセントほどだと報告されています。

小山 とは言え、そんなに貧しいわけでもない気がするけどね。日本の美術館では面白い展覧会がたくさん開催されているし、おもしろいコレクターも大勢出てきていて、投資家みたいな人も転売する人も現れています。そういう人たちによってマーケットが成り立っていくわけですよね。サザビーズやクリスティーズのような作品価格ではないけど、日本のオークションも機能し始めていますし。

石井 何十億の作品を購入する人がいないということなんでしょうね、その1パーセントという数字に表れているのは。欧米のメガギャラリーは、大規模な経営をしていて、そういう額の作品を売り続けないと立ち回らなくなってしまうマーケットの仕組みなんですよ。中途半端だと倒産してしまうから、成長させてどんどん経営規模を大きくすることを目指している。儲け続けないといけないのは大変だと思いますよ。

小山 損して失敗できなくなってしまうのは辛いですよね。だってユニークな展覧会だってやっていきたいじゃないですか(笑)。

左から、小山登美夫、石井孝之、菊竹寛

──そういう遊びが生まれない環境になってしまったら残念ですよね。東京でもPace東京など海外ギャラリーの進出などが話題となっていますが、メガギャラリーの支店が続々とオープンし、「フリーズ・ソウル」などのアートフェアが行われる韓国のソウルと比較すると、アートによる街の活性化という意味で、東京は一歩遅れをとっているように思います。そうなるのには、何が必要だとお考えですか。

石井 税制の問題が大きいとは思いますよ。

小山 韓国はキャピタルゲインの7パーセントだけを税金として払えばいいんですよね。ひとつの作品を10万円で買って、100万円で売ったとしたら、90万円の7パーセントにあたる6万3000円を払うだけでいいわけですよ。韓国では。でも日本の税制においては、50パーセントの45万円を払う必要がある。その状況は大きいですよね。

石井 あと教育もありますよね。海外から作家や先生を呼んで授業できるような環境が、日本ではまだ整っていません。それができれば喜んで来日するアーティストは大勢いますし、興味を惹かれる人も増えて水準は確実に上ります。

──先ほど菊竹さんが教育プログラムの話をされていましたが、TODAビルの近くには公立小学校もありますし、パブリック・アートの鑑賞プログラムなどとあわせてギャラリーコンプレックスでできることも増えそうです。

菊竹 教育プログラムにはずっと興味をもってきました。アートシーンやマーケットが活性化して充実していくことで、文化の力そのものが拡大してほしいという思いが前提にありますが、やはり、小さいときからアートに触れ、アーティストがいるということを知ることができれば、作品鑑賞が日常の一部になり、作品を買うことへのハードルが下がると思うんです。六本木のスペースでも、展覧会ごとに子供向けのワークショップはできるだけ開催するように心がけています。京橋のTODAビルでも、そういう企画は積極的に行っていきたいですね。

菊竹寛

小山 スクールやレクチャーなどを含む教育プログラムも含めて、TODAビルでは3階のギャラリー以外にも多岐にわたるプログラムを企画されているので、色々と面白い広がりは期待できますね。アートにお金を使っている珍しい企業なので、とにかく続けていただきたいと思っています。こんな夢物語のようなビルができあがってしまっているわけだから、私たちも頑張って、夢物語だったんだとならないようにしたいですね。

TODA BUILDING(右)外観イメージ

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