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安定しつつも変わりゆくオールドマスター市場。その背景にあるものとは?

今年2月からアムステルダム国立美術館で開催されているフェルメール展では、開幕からわずか2日間で45万枚のチケットが完売するなど、オールドマスター作品に対する鑑賞者の情熱の高さがうかがえる。いっぽう、アートマーケットでは同カテゴリーの作品に対する需要やその現状はどうだろうか? 今年5月にルーベンスの《マルス神としての男》(1620頃)がサザビーズ・ニューヨークに出品されるのを機に、ロサンゼルス在住のアートジャーナリストであるCheyenne Assilが考察する。

文=Cheyenne Assil 翻訳=編集部

ピーテル・パウル・ルーベンス Man as the God Mars 1620頃 Courtesy of Sotheby's

安定的に推移しているオールドマスター市場

 サザビーズが1月に開催した「バロック:フィッシュ・デビッドソン・コレクションの名品」というオークションは、同社のオールドマスター・ウィークの一環として、ニューヨークで行われた10のセールのうちのひとつ。このオークションでフィッシュ・デビッドソン・コレクションから出品された10点のうち、もっとも注目されたのは、ピーテル・パウル・ルーベンスの《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》だった。この作品は、1998年のオークションで落札されたときの価格を5倍に上回る3500万ドルで落札されると予想され、オークションに出品される前から注目を集めていた。しかし、実際の落札価格は2690万ドル(手数料込み)で、作品の推定価格帯の下限に位置していたが、それでも、ルーベンス作品のなかで過去3番目に高額な作品にランクインすることができた。

 このバロックの名画の個人売買の成功と注目は、今年2月からアムステルダム国立美術館で開催されているフェルメール展の大成功を予感させるものだった。本展は、世界各国から来場者があり、開幕からわずか2日間で45万枚のチケットが完売するなど、この時代の美術を鑑賞する観客の裾野の広さを示している。

2023年6月4日までアムステルダム国立美術館で開催中の「Vermeer」展の展示風景より、《真珠の耳飾りの少女》(1664-67頃) Photo Rijksmuseum/ Henk Wildschut

 このように、多くの人々が作品を鑑賞するいっぽうで、アートの売買をめぐる状況は異なっている。ウクライナ戦争や社会・政治・金融情勢などの影響を受け、現在のアートマーケットの健全性は不透明だ。「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2023」によると、2021年から22年にかけて、近代美術の販売額は8パーセント減少し、戦後および現代美術の市場規模は4パーセント減で現代美術部門の総販売額は8パーセント減少している。いっぽう、オールドマスター市場は近年、安定的に推移している。このカテゴリーの良質な作品がマーケットに流通する数は少なく、また、一度購入された作品が長期間コレクションにとどまることが多い。そのため、市場全体でのシェアは4パーセントにすぎないが、2022年、同部門の売上は前年比で14パーセント増加したという。

 サザビーズがフィッシュ・デビッドソン・コレクションを「ホワイトグローブ」(全ロット完売)で売却し、17世紀バロック美術のストーリーを構築したのに続き、5月のモダン・イヴニング・マーキー・オークションでは、同じコレクションからルーベンスの《マルス神としての男》(1620頃)という別の作品を出品する予定である。ニューヨークのサザビーズでオールドマスター絵画を担当するクリストファー・アポストル(Christopher Apostle)に、オールドマスター市場や今回のルーベンス作品について聞いたところ、美術市場全体、そしてこれらの作品に対するコレクターの現状や変化についての洞察を得ることができた。

ピーテル・パウル・ルーベンス Man as the God Mars 1620頃 Courtesy of Sotheby's

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