国内のミュージアムは季節の移り変わりに合わせるかのように、新年は静かに始まり、冬から春先にかけて次第に盛り上がりを見せ、ゴールデンウィークにピークを迎えるのが毎年の通例だ。
遡ること2ヶ月前の今年1月下旬、仕事の帰り道にTwitterを眺めていたら、ミュージアムショップにまつわる個人的には大きなニュースが飛び込んできた。それは、これまで日本国内で開催されてきた数々の展覧会において、いつも素晴らしいミュージアムショップの企画・運営を手がけている、株式会社Eastのあるツイートだった。
Eastより大切なお知らせ。
— 株式会社East (@TeamEastest) January 24, 2023
三菱一号館美術館のショップ「Store1894」の企画と運営を
2012年から約10年間
お手伝いさせて頂きましたが、
修繕の為の長期休館のタイミングで
その役目を終了する事となりました。
長い間、ありがとうございました。
ヴァロットン展の5日間と
次回展まで頑張ります! pic.twitter.com/XdSyQlYIIS
このツイートを見た直後は、驚くと同時にとても残念に思った。ただ、新しく開く店があるいっぽうで、永遠になくならない店もこの世界には1つだってない。美術館が長期休館するという事情であれば、閉店もいたしかたないのかな……などと思いを巡らせているなかで、思わずEastの代表である開(ひらき)永一郎さんと久々に連絡を取り、お互いの近況を含めざっくばらんにお話をさせていただく機会を得た。

開さんと知り合ったのは、かれこれ15年前くらいになるだろうか。当時、私が関わっていた国立新美術館のミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」で、京都・相国寺で開催された若冲展でEastが手がけたミュージアムグッズを販売できないだろうか?という打診をいただいたのがきっかけだったと思う。グッズに込められた想いやコンセプトが深く、こだわりを持って製作されていた。美術館や展覧会との関連はさておき、こんな伊藤若冲のグッズなら日本の素晴らしいお土産になる!と直感し、ショップの担当者とともに取り扱いを快諾したことを、いまでも覚えている。

Eastが手がけるショップの多くは期間限定の仮設であるにも関わらず、丁寧に内装や什器がつくり込まれており、とくに色の使い方が特徴的だ。目を奪われるような鮮やかな色彩や、逆に落ち着いた色合いを使うことで、空間の雰囲気をコントロールしている。また、展覧会のキュレーション、流れや文脈といったものを丹念に読み解き、販売されているミュージアムグッズに反映している。デザインを実現するために、版権元とはいつも粘り強く交渉を行っているそうだ。そんな随所に見られるこだわりの影響か、展覧会とショップのあいだでよく見られるような分断や、落差のある印象がまったく感じられない。自然と展覧会からショップへ、いたって滑らかにつながっているかのようにさえ思える。


さらに特筆すべきは、古今東西の美術はもちろん、ファッションやデザイン、そして児童文学やマンガに至るまで、幅広い分野の展覧会にあわせて、場所と内容をすべて変えながら、ミュージアムショップというかたちで都度、質の高い回答を出す力だ。これは店をつくるプロの同業者という視点から見ても、本当にレベルが高いと感じている。開さんからお話を聞いて、なるほどと思ったのだが、数万人、多い場合は数十万人が来場する展覧会でミュージアムショップが果たすべき責任を人一倍感じているからこそだろう。
Eastのミュージアムショップは、空間や商品はもちろん、販売を担当されているスタッフさんの接客も含め、展覧会へ訪れるお客さまにショップでも楽しんでもらいたいという純粋な想い、そして展覧会そのもの、ひいては文化芸術に対する深い愛情に溢れているように感じられる。いっぽうで、品揃えのなかでユーモアの感覚や、大胆な発想も忘れてはいない。昨年の秋、世田谷から丸の内へと移転した静嘉堂文庫美術館のオープン時に大きな話題となったのは、Eastが開発した「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」だったことは記憶に新しい。

Eastは2000年代以降、日本の展覧会に併設するミュージアムショップのクオリティを確実に底上げを果たして功労者であるいっぽう、近年、「稼ぐ」ことを求められるようになったミュージアムショップの行き過ぎた商業への傾倒を危惧し、そのクオリティと愛情によって適切なバランスを体現してきた。三菱一号館美術館のミュージアムショップ「Store1894」は長期休館に伴い、残念ながら10年間企画・運営をしてきたEastが離れ、来月4月9日で一旦その幕を閉じる。ただ、同館では現在、「芳幾・芳年ー国芳門下の2大ライバル」展も開催中。休館前にぜひショップにも訪れてほしい。


とはいえ、Eastのミュージアムショップがすべてなくなってしまう訳ではない。常設では長谷川町子記念館の購買部・喫茶部、また4月27日から東京都美術館で開催予定の「マティス展」のショップもEastによるものだ。今後の活動にも大いに期待したい。
































