1月20日に就任したアメリカ大統領ジョー・バイデンは、その就任初日に気候変動抑制に関する国際枠組みである「パリ協定」に復帰するための大統領令に署名し、2050年までにアメリカ国内の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言した。いっぽう、中国国家主席・習近平は昨年、60年までに中国国内のCO2排出量を実質ゼロにする目標を表明している。
気候変動の危機がますます深刻化し、温暖化対策が覇権争いにおける重要な要素でもある現在、アート業界においてもこの問題に対する新たな動きが始まっている。
昨年10月、ロンドンを拠点にするギャラリストやアート専門家からなる有志のグループが、アート業界における温室効果ガスを削減するために非営利団体「Gallery Climate Coalition」(ギャラリー気候連合、以下「GCC」)を設立。同団体が掲げた目標は、30年までにアート界におけるCO2の排出量を50パーセント削減するためのリソースを提供し、廃棄物ゼロに近い実践を促進するというものだ。
GCCには、この目標に合意すれば誰もがメンバーとして参加することが可能。現在は、ハウザー&ワース、ガゴシアンなどのメガギャラリーをはじめとする77のギャラリー、101人のアーティストを含む個人、そして36の組織が参加している。
同団体のウェブサイトには、スタッフの旅行や作品の輸送、梱包など、アート・ビジネスの各段階における温室効果ガスの削減に関する情報やビデオシリーズが掲載。また、それぞれの項目におけるCO2排出量を推定する「カーボン計算機」も公開されている。
その設立背景や今後の取り組みについて、トーマス・デーン・ギャラリーの展覧会コーディネーターでGCCのマネージング・ディレクターのヒース・ロウンズに話を聞いた。
コミュニティ内の切迫感からプロジェクトが発足
GCCを設立した背景について、ロウンズはこう語っている。「GCCは、コマーシャル・アート・ワールドの活動が気候変動に及ぼす影響について十分な取り組みが行われていない、という共通の懸念から生まれました。公共機関では、CO2排出量の削減や廃棄物の管理などの重要な取り組みを行っていますが、商業部門ではこうした取り組みが不足していると思います」。