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2022.12.16

長谷川祐子による「新しいエコロジー」のアンソロジーから、ホロコーストやパンデミックと呼応する図像の分析論まで。『美術手帖』10月号ブックリスト

新着のアート&カルチャー本から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介する、雑誌『美術手帖』のBOOKコーナー。10月号は、長谷川祐子による「新しいエコロジー」のアンソロジーから、ホロコーストやパンデミックと呼応する図像の分析論まで、注目の6冊を取り上げる。

文=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

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イメージの記憶(かげ):危機のしるし

 イメージが私たちに働きかける能動的な力を持つことを理論的に示したうえで、ホロコーストをめぐる様々な表象の試みや建築、進行中のパンデミックと呼応する図像といった具体的な分析対象を取り上げ論じていく。アビ・ヴァールブルクの『ムネモシュネ・アトラス』を重要な参照点とする著者の関心は、イメージをつくり上げるという操作が、いかに歴史の叙述やイメージ間の潜在的な関係性を浮かび上がらせる行為とつながりを持っているのかという点にある。装画に宇佐美圭司の作品が用いられているのは、著者が宇佐美の作品に、そうしたイメージとイメージの相互作用のひとつの在り方を見ているからにほかならない。(岡)

『イメージの記憶(かげ):危機のしるし』
田中純=著
東京大学出版会 4300円+税

創造とアナーキー 資本主義宗教の時代における作品

 トマス・アクィナスの神学から20世紀初頭の前衛芸術、そして絶えざる未来への信仰によって駆動される現代の資本主義まで。広大な時間軸を行き来しながら、哲学、政治、芸術についての思索をめぐらすアガンベンの論考集。芸術運動と宗教の典礼を同列に扱い、人間の創造行為において「非の潜勢力」が果たす作用を見つめ、法権利の外部にある「使用」や「貧しさ」の概念を再定義するなど、芸術論にも敷衍される問題系を考察する。比較的短めの論考が集められているため、アガンベンの入門としても読みやすい。(中島)

『創造とアナーキー 資本主義宗教の時代における作品』
ジョルジョ・アガンベン=著 岡田温司・中村魁=訳
月曜社 2000円+税

アナロジーの奇跡 写真の歴史

 フェミニスト視覚文化論の分野でも知られる著者による写真論。写真という技術が確立する以前のカメラ・オブスクラや写真の技術的発展に対する言説や認識の変化を追いつつ、先行するベンヤミンやバルトの写真論と異なる写真論の在り方を探ろうとする。初期写真とジェフ・ウォール、杉本博司、シャンタル・アケルマンら現代作家の作品を並置して論じることで、ポジ/ネガといった写真をめぐってよく使われる諸概念の布置、ひいては、世界を見ることとの関係を論じていく。訳者たちによるキーワード集や細かな訳註は、理解を深める一助となる。(岡)

『アナロジーの奇跡 写真の歴史』
カジャ・シルヴァーマン=著 松井裕美・礒谷有亮=訳
月曜社 3600円+税

新しいエコロジーとアート 「まごつき期」としての人新世

 この本が言うエコロジーとは、私たちを取り巻く自然環境だけでなく、科学技術、経済、国家制度などの様々な要素を包括的に指すものである。つまり、近代的なかたちで人間が存在するための諸条件を指している。本書では、この意味でのエコロジー──環境、技術、そして現在進行形のパンデミックなど── に対する様々なレベルでの介入的なアート実践、キュラトリアルな実践がアンソロジー形式で紹介されている。なかでも、2019年にパリで開催された「木々」展の学術顧問を務めたエマヌエーレ・コッチャのインタビューは、既存のエコロジーという言葉に対する批判的な言及も多く含まれ興味深い。(岡)

『新しいエコロジーとアート 「まごつき期」としての人新世』
長谷川祐子=編
以文社 3200円+税

誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論

 ホームレスの滞在をそれとなく阻止するために、公園、広場などの公共空間に設置される排除アート。セキュリティ意識の高まりとともに1990年代頃から登場し始めたそれらは、著者によれば「環境型の権力」であり「ネガティブな機能をもつデザイン」であるという。 コロナ禍における公共空間の変容、アーティストによる都市への介在も視野に入れながら、市民のふるまいを無意識のうちに管理・規制する排除アートの発展を観測した小論。あるべき都市の姿を再考するための手がかり編集部のおすすめにもなるだろう。(中島)

『誰のための排除アート?不寛容と自己責任論』
五十嵐太郎=著
岩波書店 520円+税

峯村敏明著作集Ⅳ 外国作家論・選

 時に辛口に、時に愛を込めて。半世紀にわたって活動を続けてきた美術評論家の著作集がついに刊行を開始した。全5巻のうち、第1弾である本書には20世紀の西欧作家論が収録される。まず、ルチオ・フォンタナ、ジョルジョ・デ・キリコ、ジョルジョ・モランディらをめぐる論考が必読。イタリア美術に造詣が深い著者ならではの観点が光っており、モノグラフとしても貴重なものばかりだ。イヴ・クラインやクロード・ヴィアラなど、日本では紹介される機会が少なかった作家たちの論考からも学ぶことが多い。(中島)

『峯村敏明著作集Ⅳ 外国作家論・選』
峯村敏明=著
美学出版 3500円+税

『美術手帖』2022年10月号、「BOOK」より)