はい、こんにちは
Chim↑Pom エリイの生活と意見
カトリック系の一貫校で少女時代を過ごし、アーティスト集団の一員としての活躍を経て、妊娠・出産へ。Chim↑Pomの特異点ことエリイがアッパー/ダウナーの怒涛の波をかき分けながら筆を走らせたエッセイ集。カンボジア、イギリスなど作品制作や展覧会の折に訪れた海外での体験、大酒を呑み盛大に吐く不摂生きわまりない日常、陣痛から分娩までの意識の流れを刻一刻と綴る出産記。破天荒なエピソードがこれでもかと襲ってくるが、聖書から引用された文言の妙もあいまってなぜか読後感は清々しい。(中島)
『はい、こんにちは
Chim↑Pom エリイの生活と意見』
エリイ=著
新潮社|1800円+税
忘れられない絵の話
高田マルは公的な場所に掲げられる「絵画」に比べて、「絵」はもっと私的なものだと言う。この本は、そんな個人的なものである「絵」を、一人ひとりとの会話を通してのぞき見ようとする試みである。忘れられない絵の話をするというのは、目の前にある絵画をディスクリプションするのとは異なる、もっと私的な営みだ。絵について語るなかで、あるいは、編集の過程で、個人のものであった「絵」が変形してしまったり、壊れてしまったりしたのではないかと高田は書く。本書は、絵を題材にしながらも、何か大切なものを誰かと共有するとはどういうことなのかを考えるケーススタディになっている。(岡)
『忘れられない絵の話』
高田マル=編
絵画検討社|2600円+税
危機の時代を生き延びるアートプロジェクト
「災害復興」「地域経済」といったキーワードから、2000年代以降の「危機の時代」に際して実施されたアートプロジェクトを紹介。せんだいメディアテークや同地のアーティストたちによる復興記録の試み、「喫茶店」の形式で相互扶助の場をつくり出した釜ヶ崎の「ココルーム」、遠方に住む者同士の「孤独なままのつながり」を可能にした「水曜日郵便局」などが登場。識者によるレポートが丁寧に各事例を深堀りしており、参加者の自発性、プロジェクトの継続性といった当事者視点の課題がよく伝わってくる。(中島)
『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』
橋本誠+影山裕樹=編著
千十一編集室|1800円+税
(『美術手帖』2022年4月号「BOOK」より)