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商業美術の系譜から、美術史家・矢代幸雄を通して見る当時の美術界まで。『美術手帖』4月号新着ブックリスト(2)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。山下裕二が日本美術史における「商業美術」の系譜を提示する1冊から、大正〜昭和に活動した美術史家・矢代幸雄の交友関係を通じて当時の美術界の状況を描き出す書まで、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

商業美術家の逆襲
もうひとつの日本美術史

 商業美術をキーワードとして、書籍の装丁や挿画・ポスター・マンガなどをひとつの表現領域としてとらえ、江戸・明治から現代まで続く日本美術史における系譜を提示する。商業芸術の持つ高い技巧性を称揚し、何よりも自分の「眼」を頼りとして作品に対峙することを提唱する。独自の眼を持つことでアカデミックな美術史上で名品とされる作品群とは異なる事物をいち早く収集した海外のコレクターたちや、日本のコレクターである福富太郎などが紹介される。カラーの挿画も多く、楽しく通読できる。(岡)

『商業美術家の逆襲 もうひとつの日本美術史』
山下裕二=著
NHK出版新書|1100円+税

矢代幸雄
美術家は時空を超えて

 ひとりの人間の交友関係を通じて、ある時代の美術界の状況を生き生きと描き出すことができるだろうか。矢代幸雄という人物を中心に据えることで、本書はこの問いに見事に答えているように思われる。矢代の驚くような交友関係が次々と披露されるなかで、20世紀初頭から戦後にかけての美術史研究という営みの一断面が活写される。本書は、矢代自身による著作はもちろんのこと、多数の最先端の研究を参照しながら、矢代を神格化することなく今日的な視点から評価する視点を備えている。(岡)

『矢代幸雄 美術家は時空を超えて』
稲賀繁美=著
ミネルヴァ書房|4500円+税

私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって

 日本アニメ界の巨匠からインディペンデントで活躍する個人作家まで。世界各地のアニメーション作品に通暁する著者が2010年代以降に発表した評論文を網羅的に収録。宮崎駿、新海誠、山村浩二、近藤聡乃、ウィリアム・ケントリッジといった有名どころを除くと、ほとんどが日本では知られていないマニアックな海外作家の作品評だが、通読すると、遠く離れた地に住む作家たちの想像力が不思議と連動していることに気づく。第3章に集められた「シーン論」はアニメーションの時空間についての分析であり、創作の原理に迫る内容。(中島)

『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』
土居伸彰=著
青土社|2600円+税

『美術手帖』2022年4月号「BOOK」より)

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