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書評:戦後日本美術研究の金字塔となるべき一冊。『美術批評集成 1955-1964』

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本から注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2021年10月号の「BOOK」1冊目は、1955年から64年まで、日本美術に関わる批評や作家の言葉をまとめたアンソロジー『美術批評集成 1955-1964』を取り上げる。

評=加治屋健司(表象文化論・現代美術史)

『美術批評集成 1955-1964』の表紙

戦後日本の美術言説の豊穣さを伝える労作

 長らく刊行が待たれていた書籍が刊行された。光田由里ら5名の研究者が編集した日本の美術批評のアンソロジーである。1955年から64年までの10年間に発表された批評や座談会、宣言文や作家の言葉など299の文章を収めている。1000ページ近い大部で、定価4万円の高価な書籍であるが、その価値は十分にある。

 本書は、全部で11章に分かれている。各章題を見るとおおよその内容がわかるだろう。「戦後社会と美術」「アヴァンギャルドとリアリズム」「アンデパンダンという場」「アンフォルメルをめぐって」「伝統―切断と変換」「国際化をめぐる諸問題」「反芸術」「ジャンルと制度」「美術批評について」「作家論」「宣言文と作家のことば」。1955年は社会党が再統一し自由民主党が誕生して、経済が戦前の水準まで回復した年であり、64年は東京オリンピックが開催された年である。この10年間は、画壇とは異なる現代美術が生まれてその活動が本格化した時期であり、制作も批評も活気に満ちていた。本書に再録された批評を読むと、戦後日本美術の言説がいかに豊穣なものであったのかがよくわかる。

 御三家と呼ばれた針生一郎、中原佑介、東野芳明らによる、著名な批評だけでなく、織田達朗や大塚睦らによる、いまではほとんど知られていない批評も数多く再録されているのが本書の大きな魅力である。入手困難な文献もかなり再録されていて便利である。

 もっとも、素晴らしい取り組みであるだけに、さらなる望みもなくはない。対象の時代を10年に区切ったため、各章のテーマに関する重要文献でも、前後の時期に書かれたものは再録されていない。この点は前後の時代の巻が刊行されて解消されることを期待したい。また、書き手は、後年になって当時を語る場合もあるし、後年の研究が当時のことを明らかにすることもあるため、この時代に関する二次文献も知りたいところだ。それから、時代的に女性の書き手や作家が少なかったとは思うものの、桂ユキ子(ゆき)のように当時多くの文章を発表していた作家もいたし、他の女性の書き手を取り上げることもできたのではないか。

 それでも、本書が歴史に残る偉業であり、戦後日本美術研究の金字塔であることには変わりない。本書の前後の時代の巻の刊行にも大いに期待したい。

『美術手帖』2021年10月号「BOOK」より)

編集部

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