ただの肖像画ではない。近寄って見てみるとそれを構成しているのは生命力あふれる花々、あるいはみずみずしい野菜の数々。この強烈でありながら奇怪な印象を与える絵画を手掛けたのは、ジュゼッペ・アルチンボルド(1526〜1593)。
アルチンボルドは、16世紀後半にウィーンとプラハのハプスブルク家の宮廷で活躍した、イタリア・ミラノ生まれの画家。油彩作品数は数少ないアルチンボルドだが、本展ではウィーン美術史博物館やデンヴァー美術館、あるいは個人蔵から代表作である「四季」の《春》《夏》《秋》《冬》の4点が初めて来日する機会をとして、開催前から大きな話題を集めてきた。
日本初の展覧会となる本展では、この「四季」とともに、皇帝マクシミリアン2世に捧げられた「四大元素」の《大気》《火》《大地》《水》の4作品も展示。それぞれの作品は、「四季」と対をなすように描かれており、会場では《春》と《大気》、《夏》と《火》といったように、アルチンボルドの意図を反映するように、ペアで並べられている。
世界を構成する「四季」と「四大元素」。これらを描くことで、アルチンボルドはマクシミリアン2世の永遠の繁栄を讃えているという。
本展開催に際し、監修を務めた美術史家で元ウィーン美術史美術館絵画部長のシルヴィア・フェリーノ=パグデンは、「今回は、人々を魅了するアルチンボルドの人生と、彼が暮らした環境について的を絞ったもので、このような展覧会は初めてです」と語る。
これまでは「だまし絵」の文脈で語られることが多かったアルチンボルド。本展では、レオナルド・ダ・ヴィンチの「グロテスクな頭部」の作品からつながる《司書》や《法律家》、あるいは逆さにしたときにまったく異なる表情を見せる「上下絵」など、アルチンボルドの多面的なアプローチに触れることができると同時に、アルチンボルドが生きた時代背景やアルチンボルドを追随した画家たちの作品(寄せ絵)なども展示されており、アルチンボルドがどのような時代のなか、作品を生み出してきたのかを概観するものとなっている。
一筋縄ではいかない、寓意に満ちたアルチンボルドの世界。ぜひ足を踏み入れてほしい。