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「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」(東京国立博物館)開幕レポート。運慶晩年の傑作、国宝7体が一堂に集う【2/3ページ】

 会場中央に鎮座する国宝・弥勒如来坐像は、運慶60歳前後の充実期に制作されたとみられる。桂材の寄木造で、胸を張り肩を開いた堂々たる姿勢を取りながらも、首をやや前に傾け、腰を引き締め、背筋には隆起が表されている。「こうした力強く写実的な表現は、まさに運慶ならではの鎌倉彫刻の特徴だ」と、本展の担当学芸員・児島大輔(東京国立博物館 学芸研究部保存科学課保存修復室長)は語る。

展示風景より、国宝《弥勒如来坐像》(鎌倉時代・建暦2年〈1212〉頃)奈良・興福寺蔵 北円堂安置

 本像は昨年度、1年をかけた修理で漆箔の剥落を抑える処置が行われた。今回は光背を外して展示され、普段は決して見ることのできない背面までをじっくり鑑賞できる。360度の視点で初めて立ち上がる存在感を堪能できる貴重な機会だ。

《弥勒如来坐像》と《世親菩薩立像》の背面の展示

 弥勒如来の背後に立つ無著・世親菩薩立像も、日本彫刻史を代表する傑作である。古代インドに実在した兄弟僧をモデルとし、眼には水晶をはめ込む玉眼技法が用いられている。その生々しい写実性は強烈な存在感を放つ。

展示風景より、国宝《無著菩薩立像》(鎌倉時代・建暦2年〈1212〉頃)奈良・興福寺蔵 北円堂安置
展示風景より、国宝《世親菩薩立像》(鎌倉時代・建暦2年〈1212〉頃)奈良・興福寺蔵 北円堂安置

 無著像は老年相で深い洞察を湛え、斜めから眺めると重厚な精神性が際立つ。いっぽう世親像は壮年の姿で、涙をたたえたような潤んだ瞳が未来を真っ直ぐに見据えている。児島は「通常の菩薩像が超越的に表されるのに対し、無著・世親像には現実感が与えられている。運慶はその違いを理解し、意識的に使い分けたのではないか」と指摘する。

編集部