第Ⅲ章「イタリアの風景 1ー場所の知覚」と第Ⅳ章「イタリアの風景 2一既視と未知」では、ギッリの興味が撮影された場所の持つ意味性や、鑑賞するもののなかにある記憶やノスタルジアへと移っていった時代の作品を取り上げる。

第Ⅲ章や第Ⅳ章で展示されている作品は、ナポリやカプリといった景勝地、あるいは伝統を感じる建物や雪景色を撮影したものが多い。いずれも美しい風景を「決まった」構図でとらえようとした意図が感じられ、それらの写真からは、これまでの作品に見られた構図や構成といった写真の内部への意識よりも、写真の外部、つまり鑑賞者たちの知覚についての興味が強く感じられる。

対象を画面端によせたり、カメラの位置を高くして広く風景をとらえたりといった工夫は、風景そのものの魅力を引き立て、詩情とも言える感情をもり立てる。いっぽうで、写真はどんどんと朴訥に、そして既視感のあるものになっていく。こうした視覚における意識のルールがどこからやってきているのか、という問いがここには込められていると言えるだろう。個人性を強く感じるポラロイド写真が用いられた作品があるのも、記録性という多くの人々が写真に求める要素をあえて強調しようとしたと思わされる。




















