三章は本展のタイトルにもある豊原国周にフォーカスしたパートだ。今年生誕190年の節目となる豊原国周は国貞の弟子で、「明治の写楽」と讃えられた存在。写真の流行する時代の影響を受け、陰影法を用いるなど、明治浮世絵に新境地を開いた。また「生来任侠にして奇行に富む」「妻を離別すること 40人以上、転居実に83度」「一男二女ありしも画系を継がず、門人数名あり」という、一癖も二癖もある人物だ。
本章にずらりと並ぶ画帖もすべて初公開であり、見事な色彩が残る。三枚続一人立で構成された作品は、舞台を見ているかのような臨場感を与える効果を生み出している。画題は、彌之助・早苗夫妻が贔屓にした五世尾上菊五郎(1844〜1930)を描いたものが大半を占めるのも大きな特徴だ。
なかでも「梅幸百種(ばいこうひゃくしゅ)」は、五世菊五郎(俳名が梅幸)の半身の舞台姿とコマ絵に俳句などを描いた大判100枚からなる揃物で、国周の集大成とも言えるもの。版元・具足屋とともにわずか2年でつくりあげた傑作だ。
なお、画帖は前後期ですべて展示替えされる。