1688年に京都・西陣で創業した老舗の織屋「細尾」が運営するHOSOO GALLERYで、新たな企画展示「庭と織物──The Shades of Shadows」が始まった。
本展は、日本庭園と能楽の研究者である原瑠璃彦、建築デザインスタジオALTEMY、そしてHOSOOの西陣織の職人が協業し、日本庭園をテーマに生み出された、織物、映像、音からなる総合的なインスタレーションを公開するものだ。
鍵となるのは、西陣に位置する細尾の織物工房「HOUSE of HOSOO」の坪庭と原が進めてきた庭園アーカイヴ・プロジェクトだ。
原の庭園アーカイヴ・プロジェクトは、つねに変化を続けるがゆえに難しい日本の庭園のアーカイブ化に挑み、庭園の本質をとらえようとするもの。2021年にはウェブサイト「Incomplete Niwa Archives 終らない庭のアーカイヴ」を公開し、同時に、インスタレーション・バージョンの《Incomplete Niwa Archives 終らない庭のアーカイヴ》をALTEMYによる空間設計のもと、山口情報芸術センター[YCAM]で展示した。
本展のプロジェクトはこれにつながるもので、原はHOUSE of HOSOOの京町家建築の坪庭を2022年3月から23年2月まで、毎月12回にわたって3Dスキャンを実施。それを12セットの点群データとして出力し、様々なかたちで庭のアーカイヴを構築した。
会場冒頭に展示される映像作品《4次元のかげ The Shadows of 4D Garden》は、この坪庭の点群データをもとにしたもの。点群データは3次元(x,y,z)の座標と色データに時間軸を加えたもので、それを3次元に投影した「かげ」を映像として出力。回転する点群データは非常に複雑な姿を見せている。
メインピースとなるのは《かげのかげ The Shades of Shadows》だ。この作品が展示される展示室は、HOUSE of HOSOOの坪庭とほぼ同等のスケールとなっており、ここに7枚の織物が展開されている。
この織物は、西陣織の二重織の技巧を応用したもので、一層を剥ぎ取ることで本透過性を上げたもの。特殊な箔糸を使用しており、緯糸には特定の色が存在しないが、鑑賞者が特殊な照明の下で視点を変えながら鑑賞することで、複雑な色が浮かび上がる。箔糸は様々なピッチで織り込まれており、その細かさが庭の変化量の大小を示す。庭の点群データが織物に落とし込まれており、各月の庭園の微細な変化と四季折々の大きな変化という2つのスケールを、物体として見ることができる。
《色のない庭》は、白砂を織物によって表現したもの。《かげのかげ The Shades of Shadows》と同じ構造と意匠の織物を用い、その後ろから光を当てることでモアレのような「かげ」が地面に落ちる。庭における「動」や「生」としての《かげのかげ The Shades of Shadows》と対照をなすように、こちらは「静」や「死」を思わせる静けさを見せている。
なお会場では、坪庭の音を経糸に、織機の音を緯糸に見立てた「音の織物」としてのサウンド・インスタレーションが流れており、耳でも坪庭を体験することが可能だ。
多様な時間の積層や、光と影、静と動が交錯する庭の姿を表現し、庭と織物に新たな視点を提示する意欲的な展示をお見逃しなく。