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大名庭園とサウンド・アートが出会うとき。evala×鈴木昭男「聴象発景」がスタート

香川県丸亀市に位置する大名庭園「中津万象園」を舞台に、evalaと鈴木昭男というふたりのサウンド・アーティストによる展覧会「聴象発景 / evala (See by Your Ears) feat. 鈴木昭男 」がスタートした。

 

鈴木昭男とevala

 いまから約330年前、1688年に京極二代藩主・高豊侯によって丸亀藩中津別館として築庭された香川・丸亀の名園「中津万象園」。この歴史ある大庭園を舞台に、初めての試みとなるサウンド・アーティストによる展覧会「聴象発景」が開幕した。

 中津万象園の庭園の広さは約5ヘクタール。京極家先祖の地である琵琶湖をかたどった八景池には、近江八景になぞらえた「帆」「雁」「雪」「雨」「鐘」「晴嵐」「月」「夕映」と銘した8つの島が配されており、その島々が橋で結ばれている。

庭園

 この回遊式庭園で作品を展示するアーティストはふたり。1960年代より、音を用いたイベントやパフォーマンス、インスタレーションなどを国内外で展開してきたサウンド・アートの先駆的存在・鈴木昭男と、テクノロジーを駆使したサウンド・アートを手がけるevalaだ。

 まず鈴木は、庭園内の6ヶ所に96年から続けてきた「点 音(o to da te)」シリーズを展開。「点 音(o to da te)」とは、茶道の「野点(のだて)」をもじったもので、戸外で出会う音をひとつのシンフォニーとして、聴覚意識を開くという作品。鑑賞者は耳の形をした足のマークの上に立ち、その場所でしか聞こえない音にじっと耳を澄ませる。

 本展のために制作された「点 音(o to da te)」の新作《観測点星》(2019)は、北斗七星のかたちに7つの円柱が置かれ、そのうちのひとつに立つことができる。鈴木によると本作は「空を借景とした作品」で、能舞台の原型をこの7つの円柱として提示しているという。

《観測点星》に立つ鈴木昭男

 また鈴木は、庭園内にある絵画館で2つのインスタレーションを展開。《うつし》(2019)は、中津万象園の輪郭を美術館の展示室内に写し、一辺7メートルの正方形として再構成したもの。富士山を模した富士塚のように、ここを一周することで抽象的に池のほとりを一周したことになる。

展示風景より、鈴木昭男《うつし》(2019)

 また、ジャン=フランソワ・ミレーやカミーユ・コローの絵画が展示された部屋の中央に設置された《エコノミカル・ガーデン》(2019)も、同じく万象園の輪郭を作品にしたもの。樽木で池の輪郭を縮小させ、その枠の中には8つの島を模したオブジェクトを配置。お掃除ロボット「ルンバ」がピンポン玉を動かす様子は、枯山水の砂紋描きの見立てだ。

 これらふたつの作品は、海に見立てられた日本庭園をさらに別のもので表現した、重層的な風景と言える。鈴木のサウンド・アートとは異なる側面に触れる貴重な機会だ。

展示風景より、鈴木昭男《エコノミカル・ガーデン》(2019)

 いっぽう、evalaは3つの作品を庭園内で展開する。

 庭園内で最初に渡る、長さ30メートルの邀月橋(ようげつばし)に立つと聞こえてくる《Atomos Crossing》は、風景と溶け込むように響き渡る作品。「聴象発景」の世界へ誘うサウンド・インスタレーションだ。

 また近江八景のひとつ「粟津の晴嵐」をモチーフにした晴嵐島では、evalaが実際に近江八景をめぐり、フィールド・レコーディングした音源のみを使用したインスタレーション《Artificial Storm》を耳にすることができる。音源を8台のスピーカーに位相変換したこの作品は、晴嵐島の見晴台「筆海亭」に登りきったところで風景とともに現れ、ふたつの場所をつなぐ。

右が茶室「観潮楼」

 そして、晴嵐島の対岸にある江戸時代に建てられた茶室「観潮楼」では、evalaと鈴木昭男のコレボレーションとも言える作品が待ち構えている。

 《Anechoic Sphere - Reflection/Inflection》(2019)と題された本作は、鈴木が設置した「点音(o to da te)」のうち3ヶ所から集音した音や、庭園内のあらゆるスポット、あらゆる季節で録音された音源を、プログラミングで8.1チャンネルの立体音響作品に仕上げたもの。日本最古と言われる煎茶室の中で繰り広げられる音はあまりに高精細なため、現実世界の音なのか作品なのか、判別すらつかなくなる。時間も場所も異なるものを、10分間に圧縮した本作。開け放たれた窓と音が内と外をつなぎ、ふたつとない空間が生まれた(なお本作は土日祝のみ観覧可能)。

《Anechoic Sphere - Reflection/Inflection》(2019)の空間に座るevala

 本展でキュレトリアル・ディレクターを務めた阿部一直は、この庭園のスケール感がサウンド・スケープとして面白いと語る。水面が効果的に働き、対岸の音がよく聞こえるという独特な構造。この文化的な遺産を、現代においていかに再発見できるのかが本展のポイントだ。庭園を造園当初のコンテンポラリーな作品としてとらえ、ふたりの聴覚へのアプローチによって環境全体への意識変容が促されるだろう。

鈴木昭男《観測点星》(2019)

編集部

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