津山城周辺エリア
グリーンヒルズ津山
1994年から「かぎ針編み」の技法を使った作品を手がけるエルネスト・ネト。緑の芝生が広がるグリーンヒルズ津山では、巨大なネットのインスタレーションが佇む。《スラッグバグ》は、リサイクル繊維でつくられたかぎ針編みの網が竹の支柱に吊り下げられ、天蓋のように設置されたインスタレーション。訪問者は作品の中に入ったり、触れたりすることができる。ネトはこの作品について、「かぎ針編みを使うことで『身体の粒子』にもっと近づいていける。自分の身体の一部に語りかけることはまさに現代美術そのもの」と語る。
城東むかし町家
津山城城下町にある城東むかし町家には、タレク・アトゥイ、片桐功敦、八木夕菜の3作家が作品を見せる。なかでも華道家・片桐のインスタレーション《風土》は強烈だ。かつて台所だった場所に、片桐は津山で収穫した小麦を大量にインストール。町家の歴史的な空間を飾り立て、植物の有用性と美しさをダイナミックに提示する。
また八木は、この地方で愛される「美作番茶」に注目し、茶室の中で「茶徳」を展示。昔から続く天日乾燥で美作番茶をつくり続ける小林芳香園で伝統的工程に立ち会った経験をもとに、茶室の中で美作番茶を取り上げた。茶釜の中には焙煎をかける前の茶葉が積まれており、それを持ち帰ることで、展示との別れを暗示する。
PORT ART&DESIGN TSUYAMA
1920年に建設された旧中国銀行津山東海支店で、いまは県指定文化財となっているPORT ART&DESIGN TSUYAMA。ここでは、映像インスタレーションを扱う志村信裕とテキスタイルアートの分野で活躍したパオラ・ベザーナの2作家が展示されている。
吉野杉を使った入口の天井部分では、ダイヤモンドカットされたビーズを転がす様子をもとに制作された志村の《beads》が投影され、空間を彩る。また金庫室で展示される新作の《記憶のために(津山・林野)》は、津山のバナキュラーなフィルムを素材にしたもの。津山市内で150年続く江見写真館から提供された1932年のフィルムをデジタル化し、志村が撮影した木漏れ日を重ね合わせることで現代に甦らせた。
いっぽうのパオラ・ベザーナ(1935〜2021)は社会的・文化的文脈から発展した「織り」の技術に魅せられ、3次元性を探究した作品を制作した作家。今回は、木材による構造とテキスタイルを掛け合わせた立体作品《Una strada lunga (Long Road)》(1978)や、オリジナルパターンのサンプルやその指示図面などを展示。国内においてベザーナの作品が多様なヴァリエーションによって紹介されるのはこれが初めてだ。
衆楽園
旧津山藩別邸庭園で、いまも見事な庭が広がる衆楽園には、リクリット・ティラヴァニ、太田三郎、加藤萌、甲田千晴、森夕香が作品を展示する。
とくに象徴的なのがリクリットによる新作《untitled 2024(to find water look for forests [水と求めて森を探す])》だろう。今回、リクリットは津山市のbistro CACASHIのシェフ・平山智幹と津山市のスーパーマーケット・マルイと地元食材を使用した作品としての弁当を開発した。
また、真庭の染色家・加納容子とコラボレーション。衆楽園の自然をトレースしたような暖簾作品が大広間に広がり、庭園内の茶室・風月軒には月の柄の7枚の暖簾が風に吹かれてたゆたう。
津山まなびの鉄道館
アジア文化を起点とする作品で国際的に高い評価を得ているキムスージャは、プリズムシートを使った作品で知られる韓国を代表するアーティストだ。今回、キムスージャは津山まなびの鉄道館を舞台に新作を展示。高さ8メートルの旧車庫空間にある2188もの窓にプリズムシートを施した。建物に西日が差し込むことで、空間が大きく変容する。ただし鑑賞時間に気をつけたい作品だ。
城西浪漫館
もともと病院として使われていた洋館「城西浪漫館」(中島病院旧本館)では、結晶や藻などを扱ってきたアーティスト、ビアンカ・ボンディに注目したい。日本が発祥の森林浴などの「森林医学」に着目したボンディは、中島病院と森林を結びつける新作を発表。周辺で採取された様々なハーブや苔などが会場内に配置され、別世界が出現している。
つやま自然のふしぎ館
動物の実物はく製から人体標本まで、約2万点を常設展示する「つやま自然のふしぎ館」。創設者の遺言に基づく本人の臓器(脳、心臓、肺、肝臓、腎臓)が展示されている点が大きな特徴となるこの館では、バイオテクノロジーに強い関心を示すソフィア・クレスポが《Critically Extant》を展示する。同作は、生物に関する100万枚ものオープンソース画像と約1万種の生物に関する情報で形成されたAIアルゴリズムを使用し、絶滅危惧種のイメージを生成している。生み出された曖昧なイメージは、人類が持つ絶滅危惧種について持つ情報の少なさを示唆するものだ。いっぽうで、テクノロジーと自然とが手を取り合うことの可能性も提示している。
城下スクエア
つやま自然のふしぎ館に隣接する空き地(城下スクエア)には、ジャコモ・ザガネッリによる《津山ピンポン広場》が設置された。ザガネッリはパートナーのシルビア・ピアンティーニと2022年、23年に県北に約1ヶ月間滞在し、津山市の役所や地域コミュニティ、学校などを訪問。住民との対話を通じてプロジェクトを進めたという。本作は、パブリックに開かれた屋外卓球場をつくりだすプロジェクトであり、パーマネントに設置。卓球のみならず、人々の交流の場となることを目指す。