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印象派誕生150周年「ノルマンディー印象派フェスティバル」レポート[後編]。天空と地上のあいだに浮かぶ現代美術

現在フランスでは、印象派誕生150年を記念した祭典が半年にわたり開催中。レポート後編では、同祭典のプログラムとして秋まで開催中の展覧会から、森美術館が初めて海外にまとまった数のコレクションを貸し出した日仏合同企画展を含む、とくにおすすめの現代美術展を3つ紹介する。

文=飯田真実

展示風景より、シーン・スキャリー《The 12》(2019-2022)Photo (c) Cécile Schuhmann

ローラン・グラッソ「Clouds Theory」(ジュミエージュ修道院、〜9月29日)

 ルーアン駅から車で45分ほどかかる場所にあるジュミエージュ修道院の建立は654年に遡る。「フランスでもっとも美しい廃墟」とも言われる野外遺跡で、この地域でもっとも古く重要なベネディクト派修道院のひとつだ。バイキングに破壊されたのち10世紀にノルマンディー公により再建されたロマネスク様式の白い塔はセーヌ川のほとりに50メートル近い高さでそびえ立ち、訪問者を圧倒的な時空間に放り出すと同時に、地上と天空の関係、人里を離れたこの場で暮らした人々とその信仰について思いを巡らせる。

ジュミエージュ修道院(敷地内にあるノートル=ダム修道院教会部分)
© Julien Paquin - Département de la Seine-Maritime

 印象派祭ディレクターのフィリップ・プラテルは、パリとニューヨークを拠点に活躍するローラン・グラッソ(1972〜)とこの場所を結び付けた。グラッソは様々なメディアを用いた作品を通じて、科学や信仰、古典美術などに見られる知識体系とその限界だけでなく、環境汚染や核利用から生命の消滅の可能性にも言及してきている。プラテルは、グラッソが2018年の第21回シドニービエンナーレに招聘された際、在オーストラリアフランス大使館の文化担当官として制作をサポートしていた。グラッソはそのとき、先住民の土地での撮影を依頼し、その地で感じた目に見えない力の在りかたを作品化しようとした。今回は、大規模なアトリエを構える予定もあるノルマンディーの地で、グラッソが感じた多義のエネルギーを既存の代表作も展示しながら可視化した。

 修道院の中心にある教会部分に入ると、まるで絵に描いた雲の形をした銅製の彫刻──丸みを帯びた個体が2分割された形状で合計6つあり、加熱加工で鈍色のグラデーションを纏った外面と鏡のように磨かれた断面とが共存している──が地表に落下したかのように設置されている。少し遠くに、真っ黒な大理石でできた雲も落ちている。背景の柱が伸びる方向に目をやると、青空(この地方特有ですぐ曇り雨空にもなるが)には白い雲が「まだ」浮かんでいた。廃墟の「外側」には初夏の緑色の芝生が広がっているのだが、雲が転がる「内側」は、黒い塗料で覆われ焼地が演出されていた。

展示風景より、ローラン・グラッソ《Clouds Theory》(2024)。6つの半切りの雲からなる。外側は加熱による特殊加工がなされ、過去の数々の災害や、酸性雨などを降らす雲が含む有害物質も暗示する。断面は鏡のように磨かれ、覗き込む物や光のさす世界を反射する
© Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2024 Photo Tanguy Beurdeley Courtesy Perrotin

 奥に進むと、野外遺跡の壁にホワイトキューブのように電源がひかれ、ネオン管で線描された「目」の両極から飛び出た電子が原子にぶつかり、白い光を発しながら鑑賞者を一斉に見つめ返す。全能の神の視線か監視網か。別の一角ではその目が見つめる先に宿る火の如く赤い「炎」のネオンが揺らぎ、度々の火災を経験している寺院を燃やし続けている。現実と再現の対比に加え、手仕事や交渉の末に成り立った現代アートの物質性がどこかSF的な重力の操作によって散りばめられている。過去に見出された現象なのか未来に備える新たな理論なのかが可逆的な劇場が提示されているように感じられた。

展示風景より、ローラン・グラッソ《Panoptes》(2024)。30の目が鑑賞者を見返す
© Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2024 Photo Tanguy Beurdeley Courtesy Perrotin
展示風景より、ローラン・グラッソ《Clouds Theory》と《Eternal Flames》 (ともに2024、部分) 。48の炎が絶えず燃え続けている
© Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2024 Photo Tanguy Beurdeley Courtesy Perrotin
展示風景より、修道院跡の北東に位置する元修道院長の住居施設内。右はローラン・グラッソ《Studies into the Past》(2024)。同名のシリーズ作品で展開していた図象を用いて、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている仏・オービュッソンのタペストリー工房と制作した
© Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2024
Photo Tanguy Beurdeley Courtesy Perrotin

シーン・スキャリー「Procession」(聖ニコラ教会[カーン]、〜9月22日)

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