• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超え…

「北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」(パナソニック汐留美術館)開幕レポート。50点を超える実物でその仕事を知る

パナソニック汐留美術館で、デンマークのデザイナー、ポール・ケアホルムの仕事を振り返る「織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」が開幕した。会期は6月29日~9月16日。担当は同館学芸員の川北裕子。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より

 東京・汐留のパナソニック汐留美術館で「織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」が開幕した。会期は6月29日~9月16日。担当は同館学芸員の川北裕子。

展示風景より

 ポール・ケアホルム(1929~80)は、20世紀デンマークを代表する家具デザイナーだ。石や金属などの硬質な素材を取りあわせた厳格なデザインは後進にも強い影響を与えた。

展示風景より

 本展は、長年にわたり椅子研究と収集を続けてきた織田憲嗣のコレクションを中心にケアホルムの主要作品を網羅した、日本の美術館では初めての展覧会となる。織田はケアホルムの魅力について次のように語った。「ケアホルムにはハンドクラフトではなく、工業製品として一般の人々が手軽に良い家具を使えるように、との思いがあった。しかし、その加工に関してはハンドクラフトと共通する思想がある。会場でそれを感じてもらえれば」。

左から伊藤政博(パナソニック汐留美術館・館長)、織田憲嗣(椅子研究家)、田根剛(建築家)、川北裕子(パナソニック汐留美術館・学芸員)

 会場設計は建築家・田根剛が担当。これまでの同館の展覧会と導線は大きく異なり、入口‎と出口を同じ場所に集約。来場者は展示室を最後まで回った後に、もう一度作品を振り返りながら会場を戻るという体験が提供される。田根は今回の会場設計について次のように語った。「自身も織田先生の教え子であり、その潤沢なコレクションを東京で紹介できる貴重な機会として、作品を堪能できるよう心がけた」。

展示風景より、《PK12》(1962)

 展覧会は3章構成となる。第1章「ORIGINS  木工と工業デザインの出会い」ではケアホルムの原点と足跡、代表的な作品を関連資料とあわせて紹介する。

 本章でとくに着目したいのはケアホルムの初期の代表作といえる《PK25》と《PK0》だろう。《PK25》はケアホルムがコペンハーゲン美術工芸学校の卒業制作としてデザインしたもの。スチールとフラッグハリヤードという異素材を組み合わせながらも、その整理された骨格はとても70年前のものとは思えないほど洗練されている。

展示風景より、《PK25》(1951)

 いっぽうの《PK0》はケアホルムが学校卒業後に、家具メーカー、フリッツ・ハンセンに就職してすぐに会社に提案したものだ。このデザインは在学中の最終課題で生まれたもので、その複雑な曲面構成から結果的に製品化が難しかった。会場では97年になって600脚限定で生産されたうちの1脚を展示している。

展示風景より、左から《PK60》、《PK0》(1952)

 このように、ケアホルムは極めて早熟なデザイナーだったが、こうした50年代初頭の仕事は構造そのものを探求していたといえる。その姿勢はやがて、スチールのみならず、皮、石、木、籐、麻布などを取り合わせていく仕事へとつながっていく。

展示風景より、《PK24》(1965)

 本展の白眉となるのが第2章「DESIGNS  家具の建築家」だろう。ここではケアホルムの初期から晩年までの家具デザインを年代順に約50点紹介している。部屋はモノクロームに配色され、その導線は並べられた椅子のあいだを縫うように切り返しながら、各作品を全方位から見ることができる。

展示風景より、《PK20》(1967-68)

 1956年、ケアホルムの家具を制作する会社としてコル・クリステン社が設立。ここでケアホルムが最初につくったのが鋼管フレームを用いた3脚のダイニングチェアだった。《PK1》(1956)はそのうちの1脚で、マットなクロームメッキのフレームに籐を張ったものだが、会場ではのちにカール・ハンセン社から販売されるフラッグハリヤード(船のフラッグなどに使われるロープに類する素材)を張ったものも展示。構造は同じであるが異なる素材を用いることで違う家具になるというケアホルムの思想が反映されている。

展示風景より、《PK1》(1956)

 《PK9》(1960)は、ケアホルムが自邸のダイニングセットのためにデザインした作品だ。スプリングスチールでつくられた三本脚の美しい曲線は、工業製品であると同時に、ハンドクラフトの繊細さも感じさせる。座面は、デンマークを代表する椅子張り職人であるイヴァン・スレクターが手がけたものだ。ケアホルムが、工業製品としての厳格さとハンドクラフトの豊かな表現を同居させる作品を制作していたことがよくわかる名品といえる。

展示風景より、《PK9》(1960)

 《PK28》(1976)は70年代に入り、ケアホルムの関心が金属を主とするものから木製のものへと移行したことをよく示している作品だ。木目の細かなメープル材をかご編みにした美しい処理が目を引くこの椅子は、田園地帯にあるホースロッドに滞在していたときにデザインしたことから、ホースロッドシリーズと呼ばれている。

展示風景より、《PK28》(1976)

 《PK65》(1979)はケアホルムが最晩年に手がけた、スチールと大理石製のテーブルだ。4本の脚と天板を支える十字型のバーを組み合わせて大理石を支えており、後半期に木製家具へと回帰しながらも、ケアホルムがスチールの構造的な可能性の探求を続けていたことを示している。ぜひ、会場では下から覗き込んでその構造を見てもらいたい。

展示風景より、《PK65》(1979)

 第3章「EXPERIENCES 愛され続ける名作」では、ケアホルムの作品のリデザインの系譜や、現代建築のなかのケアホルム、そして織田が愛用するケアホルム作品が並ぶ。

展示風景より、第3章「EXPERIENCES 愛され続ける名作」

 さらに、最後の「ルオー・ギャラリー」での展示は本展ならではの機会を提供している。「ルオー・ギャラリー」は、同館がコレクションするジョルジュ・ルオー(1871〜1958)の作品を常設展示しているが、本展に際してはこのギャラリーにケアホルムの椅子を配置しており、来場者が実際に座りながら、ルオーの絵を鑑賞できるという試みになっている。実際に座ることで、これまで見てきたケアホルムの思想に、より実感をもって触れることができるという試みだ。

展示風景より、ルオー・ギャラリー

 ケアホルムの仕事を、織田コレクションを中心とした実物を通して知ることができる貴重な機会だ。様々な角度から作品を見つめ、そこに込められたデザインの思想を体感してほしい。

美術手帖プレミアム会員限定で、本展のチケットプレゼントを実施。詳細はこちらから。

編集部

Exhibition Ranking