フィンランドのアルヴァ・アアルト財団と、遺族によるファミリー・コレクションの全面的な協力により実現した展覧会「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」が世田谷美術館で始まった。会期は6月20日まで。
有機的なフォルムを持つ家具や「イッタラ」の花瓶などを通じて広く知られるフィンランドのデザイナー、アルヴァ・アアルト(1898〜1976)。いっぽうでその妻アイノ(1894〜1949)の知名度はそこまで高いとは言えないだろう。本展は、アルヴァ・アアルト単独の仕事を紹介するものではなく、互いの才能を認め合い、ともに活動を続けた2人のアアルト──アアルト夫妻の軌跡をたどるものだ。
アイノ・マルシオ(のちのアイノ・アアルト)は1924年、当時まだ無名だったアルヴァの事務所を訪ね、そこで働き始める。その半年後に2人は結婚。アイノがパートナーになったことで、アルヴァに「暮らしを大切にする」という視点が生まれ、やがて国際的潮流となった合理主義的なモダニズム建築の流れのなかでも、ヒューマニズムと自然主義の共存が特徴として語られる独自の立ち位置を築いていった。
アイノとアルヴァのヴィジョンは、実用性や機能性を重視するモダニズムの理論とも重なるものであったが、自国フィンランドの環境特性を踏まえ、自然から感受した要素をモチーフとしたデザインを通じ、2人なりの答えを探求していったという。
アイノは夫・アルヴァと対等な関係でアアルト事務所を牽引し、現在も続くアルテック社の初代アート・ディレクターを務め、自身も建築家・デザイナーとして活躍。子供たちと日常の生活を愛する母親でもあり、生活に根ざしたその視点こそが、アアルト建築のエッセンスを形成したと言える。
アイノは54歳という若さで他界するも、アアルト夫妻が協働した25年間は2人にとってかけがえのない創造の時間となった。本展では、そんな2人が公私にわたるパートナーとして世界的建築家への道を歩み始めた1924年から、アイノが他界する1949年までの25年間の協働の軌跡を、家具やプロダクトデザイン、建築模型、そして家族の写真やプライベートなスケッチなど約230点を通じて追うもの。とくにファミリー・コレクションは日本初公開となる。
会場の世田谷美術館は戦後の建築家を代表するひとり、内井昭蔵が「生活空間としての美術館」「オープンシステムとしての美術館」「公園美術館としての美術館」を掲げ、設計を行った美術館。ただ家具を置くのではなく、美術館のなかにリビングルームがあるかのような展示デザインが試みられた本展。アアルト夫妻と美術館の見事なまでの共鳴をぜひ体感してほしい。