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2024.5.19

「三島喜美代―未来への記憶」(練馬区美術館)開幕レポート。最大規模のインスタレーションも

練馬区立美術館で「三島喜美代―未来への記憶」が開幕した。「情報」と「ゴミ」の問題をテーマに、70年にわたって創作を展開する現代美術家の軌跡をたどる個展だ。会期は7月7日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、三島喜美代《20世紀の記憶》(1984-2013、部分)
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 近年、再評価の機運が高まる三島喜美代。その東京では初となる大規模個展「三島喜美代―未来への記憶」が練馬区立美術館でスタートした。会期は7月7日まで。

 三島は1932年生まれ。54年から69年まで独立美術協会に所属し、活動初期では具象画を発表していた。具体美術協会の吉原治良に師事した画家・三島茂司に出会いその影響を受け、60年代には新聞や雑誌などの印刷物をコラージュした作品やシルクスクリーンをもちいた平面作品を制作する。しかし70年代に入ると表現媒体は一転。シルクスクリーンで印刷物を陶に転写して焼成する立体作品「割れる印刷物」を手がけ、大きな注目を集めた。日々発行され、膨大な情報をもつ印刷物と、硬く安定しているかに見えながら、割れやすい陶という素材を組みあわせることで、氾濫する情報に埋没する恐怖感や不安感を表現した。

 その後は、空き缶や段ボールなど身近なゴミを題材に陶で再現した作品、産業廃棄物を高温で処理した溶融スラグを素材とする作品を発表。近年は、自ら集めた鉄くずや廃材を取り込んだ作品制作も行っている。2021年には森美術館の「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」に参加し、高い注目を集めたことは記憶に新しい。また、23年には岐阜県現代陶芸美術館において自身初となる美術館個展「三島喜美代-遊ぶ 見つめる 創りだす」を開催するなど、再評価が進んでいる。

展示風景より、三島喜美代《Work 21-C2》(2021)

 本展は、70年にわたる三島の創作の軌跡を、主要作品を通して概観するものだ。会場は4章で構成されている。

 第1章は「初期作品」。1951年、三島が19歳のときに描いた静物画《マスカット》から始まり、徐々に60年代のコラージュへと移行していく様が見て取れる。雑誌の図像をシルクスクリーンで転写した作品《Untitled》(1970)などは、表層的にはポップ・アートからの影響も感じさせるもの。いっぽう、使い終わった大量の馬券を素材とした《メモリーⅢ》(1971)は、その後の三島の陶作品におけるゴミとの向き合い方を思わせる。

第1章の展示風景
展示風景より、三島喜美代《Untitled》(1970)
展示風景より、三島喜美代《メモリーⅢ》(1971)

 第2章は本展のなかでもっとも点数が多い「割れる印刷物」。いまの三島の作品の代名詞とも言える割れる印刷物、つまり陶に転写した作品がズラリと並ぶ。新聞、チラシ、フィルムなど、身の回りのあらゆるものを陶によって表現してきた三島。その技巧的な部分がフォーカスされがちであるが、三島が狙ったのは、日常生活にあるものを異化させ、情報洪水の危機や不安を顕在化させ、再認識させることだったという。

第2章の展示風景より
展示風景より、三島喜美代《Wortk C-92》(1991-92)
展示風景より

 三島の情報に対する問題意識は次第にゴミへと移行していった。第3章「ゴミと向き合う」は、空き缶や段ボールなどのゴミを陶によって表現した作品が点在する。これらは、素材に有限の資源である陶土ではなく溶解スラグが使われており、「ゴミからゴミをつくる」という三島の環境に対する意識が反映されている。なお、本章では2022年の作である《Work 22-P》も見ることができる。同作では、三島が以前から取り溜めておいたという廃材が陶による新聞と組み合わせられ、力強い混沌とした様相を呈している。

展示風景より、三島喜美代《Work 22-P》(2022)
会場には触れる作品も

 そして本展ハイライトと言えるのは、最後を飾る第4章「大型インスタレーション」における最大規模のインスタレーション作品《20世紀の記憶》(1984-2013)だろう。1つの展示室にぎっしりと床に敷き詰められた大量の耐火レンガ・ブロックから成るこの作品は、各レンガの表面に三島が20世紀の100年間から抜き出した新聞記事が転写されている。タイトル通り、人間の記憶が焼き付けられた1ピース1ピースが私たちの目を強烈に引きつける。なお、本作は通常、ART FACTORY 城南島に常設展示されているので、会期終了後も見ることができる。

展示風景より、三島喜美代《20世紀の記憶》(1984-2013、部分)
展示風景より、三島喜美代《20世紀の記憶》(1984-2013、部分)

 どこにも属さず、自らが感じる「おもしろさ」に突き動かされながら、人間の負の側面に作品を通してアプローチしてきた三島。繰り返されるモチーフが並ぶこの展覧会を通して、あらためてその実践と向き合いたい。