東京・天王洲のTERRADA ART COMPLEX Ⅱにオープンした新たなアートスペース「SOKYO ATSUMI」。そのこけら落としとなる展覧会「三島喜美代個展:1950年代から2021年まで」が開幕した。会期は9⽉4⽇まで。
三島は1932年大阪市生まれ。中学生時代より絵画制作をはじめ、50年代には独立美術協会による「独立展」などに平面作品を出品。1971年には「割れる印刷物」と評される陶の作品を発表し、国内外で高い評価を得た。90歳近くとなった現在も、精力的に制作を続けている。本展は三島の未発表だった初期作品から新作までを一堂に集めることで、半世紀を超えるその制作活動の変遷をたどるものだ。
今回の展覧会で初公開となるのが、三島のアトリエに保管されていたという1957年の平面作品《無題》だ。塗り重ねられた油彩のテクスチャと、重厚で乾いた色調を持つ本作は、三島の知られざる50年代の制作活動を知るこができる貴重なものとなっている。
また、三島の平面作品を代表するペインティングとコラージュを組み合わせたシリーズは、60年代のものを展示。とくに《作品 64-III》(1964)は重ねて貼り合わせられた新聞の複雑に絡み合った文字から、現代にも通底する情報の煩雑さが伝わってくる。
《作品68-A》と《作品68-B》(ともに1968)は対となる作品で、「独立展」に出品されたもの。コラージュのように見える文字はすべてアクリル絵具で描かれたもので、その中央には長方形に塗りつぶされた色が配置されている。図像としてはシンプルだが、間近で作品を見れば、複雑な筆致や重層的なテクスチャなど、そこに込められた情報量の豊かさに気がつくだろう。
三島の作品のなかでも、アイコニックな存在といえる空き缶を模したセラミックの彫刻シリーズ。本展では、2012年のシリーズ初期作品と新作が同時に展示される。初期作品は空き缶のロゴや印字に手描きの味わいが残っているが、新作はより実物に近いかたちで描写されている。2作品を比較することで、つねに実験的に手法を変えてきた三島の姿勢を感じることができる。
また、展⽰室でとりわけ存在感を放つのは、『週刊少年マガジン』と『週刊少年ジャンプ』をモチーフに、ゴミを高温で熱したときに出来るガラス状の粉末「溶融スラグ」によってつくられた巨⼤なマンガ雑誌の作品だ。本作は「⼤地の芸術─クレイワーク新世紀展」(2003、国⽴国際美術館)に出品された作品だが、今回の展示にあたり表紙絵に三島の筆が加えられており、より鮮やかな色彩を見ることができる。
三島は平面や陶による作品だけではなく、廃棄された⾦属や⽊⽚などを組み合わせた⽴体作品も制作してきた。岐阜・⼟岐と大阪・⼗三にあるアトリエに集められたドラム⽸や⽊⽚などを素材としたこのシリーズも、初期作品と最新作が同時に展示される。
この廃材を使った立体の新作となる《Work 21-B》(2021)は、据えられた時計が印象的な作品となっている。作品に使用される素材はいずれも三島のもとに集まってきた歴史を有しており、三島の個人史や生きてきた時間との連関も感じさせる作品となっている。
現在開催中の「アナザーエナジー展」(森美術館、〜9月26日)に日本人として唯一出展するなど、あらためて注目が集まっている三島喜美代。本展は三島の制作の現在地のみならず、これまでの軌跡を振り返ることができる貴重な機会となっている。