ドイツ・ミュンヘンの中心部に位置するアーバン・アート作品に特化した美術館「Museum of Urban and Contemporary Art (MUCA)」。そのコレクションを紹介する展覧会が東京・六本木の森アーツセンターギャラリーでスタートした。会期は6月2日まで。
同館では、20〜21世紀のもっとも有名なアーティストたち、とくにストリートを舞台に展開されるアーバン・アートや現代アート作家らの作品を所蔵・展示している。コレクション総数は1200点以上にもおよび、そのテーマはポップ・アートからニューリアリズム、都市環境における芸術、抽象絵画、社会・政治問題までと多岐にわたる。創設者のウッツ夫妻によって、この活動は25年以上にわたって続けられてきた。
本展では、バンクシーにKAWS、インベーダー、JR、ヴィルズ、シェパード・フェアリー、バリー・マッギー、スウーン、オス・ジェメオス、リチャード・ハンブルトンといった、同コレクションのなかでもとくに有名なアーティストら10名の作品や活動を取り上げている。
展示作家についていくつか紹介したい。例えば、アメリカのアーティストで日本でも馴染みの深いKAWS(カウズ)は、1990年代にグラフィティで注目を集めるようになり、自分自身のスタイルの確立を決意。広告にスプレーでグラフィティを描くといった挑戦的な活動が話題となった。会場では、バツ印の目が特徴のキャラクター「コンパニオン」の立体作品をはじめ、平面作品や広告がテーマの作品も展示されている。
黒い人影をテーマとしたドローイングが目を引くのは、カナダ出身のリチャード・ハンブルトンによる作品群だ。「ストリート・アートのゴッドファーザー」とも呼ばれるその領域の先駆者である作家は、舗道に殺人事件の被害者の輪郭を描き人々に衝撃を与えていた。その行為が謎の男「シャドウマン」の仕業であると囁かれ始めた頃に、ハンブルトンのキャリアがスタートしたとも言える。
「ツイスト」という活動名で人気を博していたアメリカ出身のアーティスト、バリー・マッギーは、自身のアートをビジュアル・コミュニケーションの一種であるととらえており、公共の場で発表することでより多くの人々に見てもらうことができると考えていた。本展では、抽象的な幾何学図形のグラフィックに瓶や彫刻などが組み合わさったインスタレーションとして作品を発表している。
ちなみに今年3月には、渋谷と恵比寿のあいだにある庚申道架道橋高架下には、マッギーの巨大なグラフィティが登場した。
フランス出身のアーティストで写真家のJRは、17歳のとき、パリの地下鉄で1台のカメラを拾ったことをきっかけに、街の壁や建物などに写真を貼る「ペースティング」の表現を確立する。街中に現れる巨大なポートレートは人々を驚かせるとともに、社会に対して主張や問題提起を行うある種のメディアとしてもとらえることができるだろう。
バンクシーはメディアを通じて知られる通り、世界的に有名でありながらもいまだ正体不明のアーティストだ。世界各地に描かれるグラフィティは、政治的な思想を孕んでおり、その土地で起こる戦争や資本主義、権力乱用に反対するようなメッセージがシンプルながらも暗示されている。会場最後の展示室では、バンクシーによる作品群がずらりと並んでおり、バンクシーのグラフィティ以外の表現に出会うこともできる。オークションで落札直後にシュレッダーにかけられたことで話題となった《Girl Without Balloon》(2018)も展示されている。
開幕に際し、MUCA創設者のクリスチャン・ウッツは、俳優・水上恒司(東京展アンバサダー)、声優・木村昴(音声ガイド担当)とのトークセッションのなかで次のように語る。「ストリートをキャンバスに活動を展開していくアーティストたちを支えたいという思いからMUCAは創設された。これらのアーバン・アートは多種多様な作品を見ることができるとともに、敷居が高いものではないので、アートの入り口とも言えるジャンルだろう。老若男女が楽しめる展覧会となっているため、ぜひ足を運び、お気に入りの1点を見つけてみてほしい」。