マーク・レッキーの日本初個展。「FIORUCCI MADE ME HARDCORE FEAT. BIG RED SOUNDSYSTEM」(エスパス ルイ・ヴィトン東京)が開幕

東京・表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で、イギリス出身のアーティストであるマーク・レッキーによる日本初個展「FIORUCCI MADE ME HARDCORE FEAT. BIG RED SOUNDSYSTEM」が開幕した。会期は8月18日まで。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より (C)LOUIS VUITTON

 東京・表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で、イギリス出身のアーティストであるマーク・レッキーによる個展「FIORUCCI MADE ME HARDCORE FEAT. BIG RED SOUNDSYSTEM」が始まった。会期は8月18日まで。

 本展は、フランス・パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵作品を東京や大阪など世界各地に設けられたエスパス ルイ・ヴィトンで紹介する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一貫として開催されるもので、マーク・レッキーにとって日本初個展となる。

 マーク・レッキーは1964年イギリス・バーケンヘッド生まれ。これまで「マニフェスタ5」や「テート・トリエンナーレ」、「ヨコハマトリエンナーレ2008」などに参加。ヨーロッパやアメリカで個展、グループ展を多数開催してきた。多岐にわたる活動はポップカルチャーとカウンターカルチャーの交差点に位置し、若者、レイヴ、ポップ、ノスタルジー、社会階級研究、イギリス史などを掛け合わせ、彫刻、映像、音、パフォーマンスなどを融合させてきた。

マーク・レッキー 

 本展は、《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem(10周年リマスター版)》(1999-2003-2010)と立体作品《Felix the Cat》(2013)の2点で構成されるダイナミックなものだ。

 《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem》は、巨大なスクリーンに投影された映像作品《Fiorucci Made Me Hardcore 》と、巨大スピーカーを組み合わせたインスタレーション。

展示風景より、《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem(10周年リマスター版)》(1999-2003-2010) (C)LOUIS VUITTON

 もともと《Fiorucci Made Me Hardcore》は1999年につくられた、マーク・レッキーのキャリアにおいて重要な初期作品だ。15分の映像にはレッキーが何年もかけて集めた様々な映像が凝縮されており、70〜90年代イギリスのダンスカルチャームーブメントを見ることができる。YouTubeの登場よりもはるか前に登場したこの映像のアーカイブは、あえてローファイな質がキープされており、独特の雰囲気を醸し出している。消費社会におけるブランドの重要性と、ブランドが信仰の対象にすらなる事象への興味から、レッキーが10代の頃に憧れの存在であったファッションブランド「フィオルッチ」の名が付けられた。また「Fiorucci Made Me Hardcore」という言い回し自体は、レッキーがアンディ・ウォーホルの展覧会で見た写真に写っていたグラフィティから取られているという。

展示風景より、《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem(10周年リマスター版)》(1999-2003-2010) (C)LOUIS VUITTON

 いっぽうでこの映像の音声を流す巨大なスピーカーは、2001年から03年にかけて制作された「SoundSystems」シリーズ3つのうちのひとつ。赤と黒の存在感あるスピーカーは、ロイド・ブラッドリーによるレゲエ通史『Bass Culture』のタイトルでもある「ベース・カルチャー」への賛意であり、機能的であり彫刻的な存在としてとらえることができる。

 これらを組み合わせることで、映像に流れるダンスシーンの空気が展示室内で間近に迫るとともに、映像の非物質性とスピーカーの物質性の対比が際立つ構成となっている。映像そのものはレッキーのYouTubeでも見ることができるが、巨大なスクリーンに投影されることで映画的な効果も生み出されている。

展示風景より、《Fiorucci Made Me Hardcore with SoundSystem(10周年リマスター版)》(1999-2003-2010) (C)LOUIS VUITTON

 いっぽうの《Felix the Cat》は、横幅12メートルにおよぶ巨大な布製バルーンの作品。「フィリックス」は1919年に誕生したマンガ・アニメーションのキャラクターだが、1928年にはアメリカの放送局NBCが世界最初のテレビ放送の機材テストを行った際に被写体として使われた歴史がある。マンガのキャラクターからテレビ放送という電子信号によって「永遠で普遍的なイメージ」へと変化し、またこれまでメイシーズの感謝祭パレードにも数回登場してきたフェリックス。レッキーはフィリックスを「神のような存在」ととらえ、巨大化させることでその存在への理解を深めたいと語っている。

 《Felix the Cat》は壁と天井の隙間にぴたりと収まるように展示されているが、これには「会場で一番変わった場所に展示したかった」というレッキーの考えが反映されている。

展示風景より、《Felix the Cat》(2013) (C)LOUIS VUITTON

 本展に際して初来日したマーク・レッキー。「イギリス文化に関心がある日本人は多く、またイギリスにおける日本への関心も強い。今回の展覧会でイギリス的な作品を見たとき、日本の観客であっても何か両国の共通点を探したり、親近感を持ってもらえるのではないか」との期待を語っている。

編集部

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