東京・六本木のペロタン東京で、フランス出身のアーティスト、ローラン・グラッソの個展「ORCHID ISLAND」が始まった。会期は2月24日まで。
グラッソは1972年フランス・ミュルーズ生まれ。パリ国立高等美術学校、セントラル・セント・マーチンズ(ロンドン)、クーパー・ユニオン(ニューヨーク)。多種多様な力が人間の良心に影響を及ぼす様に着目し、集団的な恐怖から、政治、電磁現象や超常現象にいたるまで、目に見えないものの具現化を試みててきた。2015年、芸術文化勲章・シュヴァリエ受勲。2018年、マルセル・デュシャン賞受賞。国内では2015年に個展「Soleil Noir」(銀座メゾンエルメス フォーラム)を開催。また、2016年の「宇宙と芸術展」(森美術館)にも出展している。
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今回の展覧会名「ORCHID ISLAND」とは、台湾の南東にある島・蘭嶼(らんしょ)のことであり、本展では展覧会と同名の映像作品《ORCHID ISLAND》を見ることができる。蘭嶼は台湾原住民のタオ族が多く住み、また胡蝶蘭の原種の自生地でもある豊かな原生林があることでも知られている。また現在は放射性廃棄物貯蔵施設が置かれており、その存廃に関しても議論が行われている場所だ。
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映像は蘭嶼の海岸から切り立つ豊かな自然を空中からとらえたモノクロームの映像が続くが、その上空をモノリスのような黒い四角形が、雲のように地上に影を落としながら進んでいく。エキゾチックな南国の島の自然を美しくとらえた映像のなかに現れるこの異物には、様々な問いが代入されていると言えるだろう。
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例えば、島名にもなっている蘭は、日本における品種改良を重ねて現在のような観賞用の胡蝶蘭へと変化していった。本作を日本のギャラリーで見るとき、胡蝶蘭に託されていた南方へのエキゾチックな視線や、かつての日本と台湾における宗主国と植民地という関係性が、このモノリスによって語られていると言える。
こうした歴史の何十にも重なった複雑性を露わにするようなグラッソの視点は、絵画作品においてもうかがえる。一見すると黒塗りのような絵画は、近づいてみるとうっすらと風景画が描かれていることがわかる。本作の下地となっているのは、19世紀のアメリカで活躍した、ハドソンリバー派の画家、フレデリック・エドウィン・チャーチの風景画だ。帝国主義全盛期のアメリカにおいて、植民地に見られる南国のエキゾチックな風景を描いたチャーチの作品は、先の映像作品《ORCHID ISLAND》のモノリスと同様の黒い影で覆われている。
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ほかにも会場では、同様の19世紀の画家たちが描いたエキゾチックな風景の上空に、映像と同様の黒塗りの四角形が影を落とす絵画作品を見ることができる。
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「ハンドアウトを見る前に、まずは目の前の作品をそのままに感じてほしいと思う」と語るグラッソ。展示されたこれらの作品群を見たとき、扱われている風景を、純粋に美しいと感じる人は多いだろう。そこに現れる黒い異物は何なのかを想像したうえで、展示作品の下敷きになっている歴史を知るとき、権力と美術が取り持つ関係の意味を考えることができるはずだ。
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