「Study:大阪関西国際芸術祭 Vol.3」が開幕。ストリートとアートの関係を再考する企画展も

2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)と同時開催を計画している「大阪関西国際芸術祭」。そのスタディとして開催されてきた「Study:大阪関西国際芸術祭」の第3弾が開幕した。会期は12月28日まで(船場エクセルビルでの展覧会『STREET3.0:ストリートはどこにあるのか』は1月末まで会期延長)

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より

 大幅な運営費の上振れで議論を呼んでいる2025年の大阪・関西万博。これと同時開催を計画している芸術祭が「大阪関西国際芸術祭」であり、その実現可能性を「スタディ」するための芸術祭が、2022年より開催されてきた「Study:大阪関西国際芸術祭」だ。その第3回が、12月28日まで開催されている(*追記:船場エクセルビルでの展覧会「STREET3.0:ストリートはどこにあるのか」は1月末まで会期延長。土日祝のみ鑑賞可能)

 第3回目となる今回は、ルクア イーレ、船場エクセルビル、中之島エリア、西成エリアなど大阪市内の16会場で企画展を開催。5ヶ国から70名のアーティストが参加している。ここでは報道内覧会で公開された場所のうち、もっとも多くのアーティストが集まる船場エクセルビルの展示を中心に紹介したい。

 解体が予定されている1968年竣工のオフィスビルであるこの建物はこれまでも同芸術祭の舞台となってきた。今回は、ストリートとアートの関係を再考し、危機の時代におけるストリートを模索する展覧会「STREET 3.0:ストリートはどこにあるのか」が展開。キュレーターを務める沓名美和は、この展示について「ストリートとは何かという答えを出すものではなく、どんなかたちや方向性があるのか、どこに続いているのかを模索するものだ」としている。

船場エクセルビル

 船場エクセルビルの会場は7つのテーマで構成されている。なかでも注目したいのは「GRAFFITI IN OSAKA」だ。大阪ならではのグラフィティの文化を取り上げるこの展示は、グラフィティ・ライターであり、グラフィティショップを営みながら専門誌『HSMマガジン』を刊行するVERYONEと、グラフィティアーティストたちの姿を撮り続けてきた®寫眞にフォーカス。この二人のアーカイヴ資料と作品を展示することで、大阪のグラフィティシーンの一側面を垣間見ることができる。

「GRAFFITI IN OSAKA」展示風景より
「GRAFFITI IN OSAKA」展示風景より

 関連展ではあるものの、石谷岳寛 + Chim↑Pom from Smappa!Groupによる「Archive of Street」は「ストリートはどこにあるのか」という問いを象徴するような展示だ。

 展示では、Chim↑Pom from Smappa!Groupの回顧展「ハッピースプリング」(森美術館、2022年)における「道」のドキュメント映像を展示。キタコレビル(2017)、国立台湾美術館(2017-18)での「道」の記録などを通して、彼らが築いてきた「道」の軌跡をたどることができる。また、様々な道から拾ってきたゴミがひとつのインスタレーションのように部屋の中に広がっており、そこにもまた新たな道が生まれている。

「Archive of Street」より

 このほか船場エクセルビルでは、複数のスマートフォンをカートに乗せて歩くことでGoogle マップに混乱を生じさせるサイモン・ウェッカートによる《Google Maps Hacks》(2020)や、独自のアルゴリズムを使い、アートワールドのプレーヤー(アーティスト)たちの評価を可視化するAQV-EIKKKMの「アートワールドがデータになるとき」などが並ぶ。

展示風景より、サイモン・ウェッカート《Google Maps Hacks》(2020)

 この「STREET 3.0:ストリートはどこにあるのか」の関連企画として立ち寄りたいのが、「淀壁」だ。淀壁は、コロナ禍の2021年3月に淀川区役所が支援するかたちで、同区在住アーティストの BAKI BAKIが医療従事者への敬意を込めて描いたナイチンゲールの壁画をきっかけに始まったプロジェクト。淀川区十三の街中に壁画を増やすことで地域を活性化させるという継続的なストリートの動きだ。今回はBAKI BAKIを含む6作家が参加している。

「淀壁」プロジェクト

 同じく「STREET 3.0:ストリートはどこにあるのか」の関連企画として、ICHION CONTEMPORARY B2では沓名のキュレーションによる「道を外した書」も行われている。

 既存の書の領域を超え、具体美術と同時代の重要なアートとして国際的に認知されている井上有一。この井上を起点に、影響を受けてきた次世代の書の作家たちが並ぶ。「モノにモノの名前を書く」という独自のスタイルを確立し、書の新たな表現で注目を集める山本尚志、書道で「パンク」を表現するハシグチリンタロウ、独自の「グウ文字」で文字と非文字を超越する形を探るグウナカヤマ、自らが見て発語があった文字を環境とともに描く日野公彦の4名の現代書家たち。視覚表現として進化を続ける書道がどこへ向かっているのかを探るものとなっている。

「道を外した書」展示風景より

 大阪ならではの芸術祭として、今年も釜ヶ崎(西成区北東部)での展示は見逃せない。

 かつて高度経済成長期の肉体労働に従事するために集まってきた労働者たちが住まう場所だった釜ヶ崎。しかし近年は高齢化や外国人の増加、あるいは不動産投資による地価上昇など、このエリアは大きな変化を迎えているという。

 このエリアに2022年にオープンした創造活動拠点「Kikou手芸館 たんす」では、前回同様、美術家の西尾美也が地域の女性たちと立ち上げた共同制作のファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」のプロジェクトを紹介。今年は「リサーチプロジェクト 後継者問題(仮)」とし、平均年齢80歳というこのブランドの次なる担い手をさぐる活動にフォーカスする。

「リサーチプロジェクト 後継者問題(仮)」より

 NPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する釜ヶ崎芸術大学では、釜ヶ崎の人々が表現した絵やオブジェ、言葉などが圧倒的な熱量とともに展示されている。また釜ヶ崎芸術大学は船場エクセルビル内でも展示を展開。今年は会田誠とコラボレーションし、建て替えが決まっているあいりん労働福祉センター内に「アートセンター」を立ち上げ、その一部に会田の部屋をつくるという構想を反映した「会田誠の部屋構想ーだから、わたしは愛したい」を展開する。

釜ヶ崎芸術大学

 今回ここで挙げたのは「Study:大阪関西国際芸術祭 vol.3」のわずか一部だ。試行錯誤を重ねる同芸術祭が2025年に何をつないでいくのかは、継続して注目する必要があるだろう。

編集部

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