これまで360度体験型展覧会「浮世絵劇場 from Paris」と「ファン・ゴッホ―僕には世界がこう見えるー」を開催してきた角川武蔵野ミュージアム。同館が、その第3弾として「サルバドール・ダリ ― エンドレス・エニグマ 永遠の謎 ―」展を12月20日よりスタートさせる。
幻想的で非現実的な独自の内面世界を写実的技法によって克明に描き出した作品で知られているサルバドール・ダリ。本展では、《記憶の固執》(1931)、《聖アントワーヌの誘惑》(1946)、《レダ・アトミカ》(1949)などダリの数々の名作をはじめ、写真、インスタレーション、映画、記録写真などから構成される映像が、全編にわたりピンク・フロイドの楽曲とともに床や壁面360度に映し出される。
展覧会は3部構成。1100平米以上の巨大空間を映像と音楽で包み込む第1会場の「体感型デジタルアート劇場」と、年表や関連資料でダリの生涯をたどる第2会場「永遠の謎ダリ!ダリ?」、そしてフォトスポットとなる第3会場の無料エリアだ。
メインエリアとなる第1会場では、32台の高輝度プロジェクターによってダリの謎に満ちた世界を再現。作品や記録写真をそのまま流すのでなく、それぞれの名作における様々なモチーフや要素を分解したり融合させたりして、ピンク・フロイドの楽曲が鳴り響くなかでひとつの没入感のあるオーケストラのように上演することが大きな特徴だ。
角川武蔵野ミュージアムアート部門ディレクターを務める神野真吾はメディア内覧会で、「絵のなかに入り込む」という没入型展覧会がしばしば開催されているが、その言葉通りの体験が起きないことが多いと話す。「本展ではプロジェクションマッピングを通して、ひとつの作品から自由に様々なものを読みとることとは違い、ある視点が提示されている。鑑賞者がどこを見ていいのかわからないというときに、(様々な要素が)わっと目に飛び込んでくることを通して、作家への理解がとても深まる」と、本展の特徴について説明している。
体感型デジタルアート劇場は、約35分にわたる全12幕で構成。若きダリに大きな影響を与えたスペイン南東部の小さな村「カダケス」をテーマにした作品をはじめ、宗教的なモチーフを驚くべき画力で描いた作品や、ダリが手がけた高級ジュエリーや室内空間のデザイン、そしてシュルレアリスム時期の代表作など、異なる時期のダリの作品のイメージを楽しむことができる。
神野は、ダリは「新しさと保守的なものが入り交じった」不思議な作家だと評価し、次のように話している。「彼は様々なメディアにも自ら登場して演出していたので、いま生きていたら、もしかしたらプロジェクションマッピングを通して自分の絵を動かしたいなと思ったかもしれない。プロジェクションマッピングを体験することで、ダリの本質に近づけることが本展の大きな意味だと思っている」。
「ダリは非常に謎めいていてよくわからないアーティスト。わからないのがおそらく正解。みなさんがその作品を考えたりそこに面白さを感じたりすることや、会場のなかでわかるという瞬間が生まれることを期待している」。