エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社によるアートメディア「MEET YOUR ART」によるミックスカルチャーの祭典、「MEET YOUR ART FESTIVAL 2023『Time to Change』」が天王洲運河を臨む6つの会場で開幕した。会期は10月9日まで。
主催者であるエイベックス・クリエイター・エージェンシー代表取締役社長 の加藤信介は開催に際し、「初開催からつくりたい世界観は変わっておらず、コンセプトに変更点はない」と述べたうえで、東京都との共催になったことや、参加アーティストの増加によりパワーアップしていることを強調。「骨太感をお楽しみいただけると思う」と自信を覗かせた。
ライブパフォーマンスやトークセッション、マーケットエリアといった様々なコンテンツから構成される同フェア。本レポートでは、展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」と2つのアートフェア「PICK UP ARTIST」「CROSSOVER」に焦点を当て、同フェスティバルの魅力をお届けする。
エキシビジョン「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」
天王洲アイル駅にほど近い寺田倉庫G1ビルの5階に上がると、キュレーター・山峰潤也が手がける展覧会「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」の会場にたどり着く。参加アーティストは、大小島真木、川久保ジョイ、小泉明朗、SIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUAD、スクリプカリウ落合安奈 collaborate with 落合由利子、竹内公太、西野達、檜皮一彦、百瀬文、森靖、渡辺志桜里。
最初に出会うのはSIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work ver. under city》(2023)だ。日頃まず見ることのない「都市の地下空間」に着目した本作では、スケーターの目線で切り取った都市の地下空間の映像と、通った空間の3Dスキャンから構成される架空のモデルが、それぞれスクリーンに投影されている。通路に設置されたもぐらのオブジェも相まって地下空間に居るような感覚に陥りながら、日々の生活を支えている構造に意識を向けることになるだろう。
強い光の方へ進んだ先にあるのは、車椅子やスケートボードを移動手段としこれをモチーフとした作品を展開する檜皮一彦の《HIWADROME_type_ark_prototype》(2023)。積み上げられた白い車椅子の中心にはスロープが見え、そこには檜皮が近年取り組むアクセシビリティの問題への意識がうかがえる。通路に点在するモニターには、檜皮がスケートボードや車椅子で移動した際にアクセシビリティの観点から気にかかった場所を、覚書のように撮影した映像が流されている。
通路を抜けると、竹内公太による大型作品《地面のためいき》(2023)が目に入るだろう。その近くに展示される写真も同作の一部であり、近接する映像作品《盲目の爆弾、コウモリの方法》(2020)、コウモリ人形とカメラで構成される《エコシューティング》(2019)もすべて、第二次世界大戦中に女工によってつくられた「風船爆弾」をテーマにしたアーティストによるドキュメンテーションとしての作品群となっている。
10メートルの風船をつくり、爆弾をのせてアメリカ本土まで届けようとした風船爆弾の歴史をたどった竹内。フィールドワークの写真を貼り合わせてつくられたという《地面のためいき》を眺め、作品が膨らんでは萎む様子を眺めたなら、終戦から78年という現在でも強く込み上げてくるものがあるはずだ。
中央の柱に貼られた渡辺志桜里《新人》(2023)のキャプションに目をやると、材料等が記載されるべき欄に「ヒト、サイズ可変」とあり慄く。渡辺は今回、美術館に準じたレギュレーションを持つ美術倉庫での展示に際して、これまでのような水や動植物を用いた表現ができないという状況に直面したという。そんな「作品が変化してはいけない」環境において、渡辺は「人間ならいいですか?」と尋ね、快諾を得て、会場にパントマイムアーティストを「持ち込み」、自然を体現する存在として展示している。
窓を背に天井まで積み上がったオブジェは、西野達による作品。《そこへ行って夢をみな》(2023)では、二酸化炭素を排出するとして問題視されてきた自動車、オゾン層を破壊する冷蔵庫を積み、一番上には節電効果を謳うLEDライトを設置することで、地面から天井に向かって過去から未来という時間軸に貫かれた表現に成功している。
その奥にあるのは、西野が「壊れるまでそこから動けないので、悲しい存在」と話す街灯を使った作品。旅に関係ある車とスーツケースというオブジェクトを用いて、対比関係から街灯の特性を浮かび上がらせたという本作には、《憧れ》(2023)というタイトルがつけられている。
窓の正面の壁には、川久保ジョイが2011年から続けているプロジェクト「The New Clear Age」の作品が並ぶ。重大な事故の記憶が継承されず風化してしまうことのないよう、約20年かけて全作品を公開するという同プロジェクト。本展ではその一部を紹介。都市を稼働させている原発の写真が、窓の外に見える現実の東京の景色と対応するよう配置されている点に注目してほしい。
小泉明朗《生の劇場》(2023)は、光州の高麗人コミュニティのティーンエイジャーを対象に行われた演劇のワークショップの記録映像で構成されるインスタレーション。ルーツの歴史を演じたものをはじめ5つの映像が重なり合うように投影される本作では、映像ごとに分数が異なるので同じ二度と体験は叶わないという。展示に合わせて作成されたサウンドトラックとともに鑑賞されたい。
小部屋のような設えに展開されるのは、スクリプカリウ落合安奈 collaborate with 落合由利子による《わたしの旅のはじまりは、あなたの旅のはじまり》(2021)。アーティストの落合安奈が自らのルーツとなっている日本とルーマニアに思いを馳せ、母で写真家の落合由利子の作品と旅をたどりつつ構成した空間には、母・由利子と娘・安奈による記録であり追憶でもある写真作品が、呼応するように展示されている。
続く部屋には、大小島真木と森靖による生命力溢れる作品が並ぶ。大小島真木は動物の皮を支持体とする《クロニクル》(2019)などの大型作品に加え、胎児になったばかりの存在を表現したオブジェに自然や生命を思わせる映像を投影した《胎海》(2022)を展示。
森靖は、人類としてギネスに記録されている最大のヒトの高さである272cmの彫刻作品など最新作を展示。ギリシャ彫刻をもとにしながら木を彫って生み出された点も興味深いが、「イメージとプロポーションの齟齬を感じてもらう」という狙いがあるという。
本展の最後を飾るのは、百瀬文の映像作品《Flos Pavonis》(2021)。作品のタイトルは、奴隷制時代に領主からの強制性交による願まない妊娠を経験した女性が堕胎薬として食した、「孔雀の花」と呼ばれる植物の名前からきているという。ポーランド人の女性と「私」、日々を冷静に生きる2人のモノローグから構成される本作は、性の非対称性と身体の自由について問いかけるものとなっている。
アートフェア「PICK UP ARTIST」、「CROSSOVER」
B&C HALLでは、国内気鋭のアーティスト42名を紹介するアートフェア「PICK UP ARTIST」を開催。その特徴は、アーティストとの対話、アート作品の深掘りを叶えるために「アーティストごと」に設けられたブースにある。番組「MEET YOUR ART」でMCを務める森山未來は、「アーティストと対話するうちに、作家を知って作品を見ることで作品の理解度を深めると思うようになった」と話す。
会場では、「Intersecting Perceptions -交差する眼差し-」にも出品中の西野達や小泉明朗、美術大学に在学中の長谷川彰宏や御村紗也、やんツー、毒山凡太郎、館鼻則孝らによる200点以上の作品を堪能できる。YU SORAや畑山太志らがブースを構える2階もお見逃しなく。
昨年に引き続き、アートと様々なカルチャーが交差する風景をキュレーター/ギャラリーがそれぞれの視点で切りとるミックスカルチャーアートフェア「CROSSOVER」も開催。今年は17組と規模を拡大し、E HALLで展開されている。
MISATO ANDOのアートフェア初出品作《自画像〜珍竹林からこんにちは〜》、その隣にはMATTERのブースがあり酒井健治によるこだわりの空間と作品を楽しめる。その裏では、画材で知られるCOPICがブースを構えているといった濃密な空間が広がっている。
また新宿眼科画廊やデカメロンなど、著名でありながら若者にも親しみやすいギャラリーが参加していることも、本アートフェアらしい点と言えるだろう。2階はまるごとSnow Comtemporaryのブース。今年3月の個展で反響を呼んだデヴィッド・ステンベックの作品など、鮮やかで美しい作品に目を奪われるに違いない。
「Time to Change」という今年のテーマについて、山峰は「時代の転換点にあるということを伝えたい」という想いがあったと話す。ジャンルとしての横断性やテーマの多様さから、このアートフェスを「ミックスゾーン」として、社会課題の解決に向けて政治・経済などの分野の協働を促進する役割を文化やアートができるのではないかという期待を込めているという。
エイベックスの加藤は、「音楽やファッションに興味がある人は、アートにも関心があるという仮説のもと、隣接したカルチャーを一緒に見せるという場」である今回のアートフェスについて、「ミックスカルチャーと聞くとふんわりしたものを想像するかもしれないが、軽くてチャラいものではないし、一つひとつ意味がある。ただ、フェスティバル全体としてはシンプルに楽しくて熱気を感じられる、『好き』とか『いいじゃん!』で入ってもらいたい。その後に作品の背景を知ったり深めていく導線をつくることが、僕たちの仕事」と話している。
昨年の初開催から揺るがないコンセプトを掲げ、それをかたちにしている「MEET YOUR ART FESTIVAL 」。アートが好きな人も、きっともっとアートを好きになる祭典に、足を運んでみてはいかがだろうか。